公開して5日も経ったのだから、もういいだろう。ネタバレします。いや、それほどでもとは思うけど、ちょっとでも抵触したらネタバレなのだろうから、予め宣言しますが、ネタバレです。ネタバレが困る人はせめて最初の5日間までには観てるはずなので、ネタバレとか今頃文句言われたとしても知らんがなってことですが、優しい僕は最初に言っておきます。ネタバレ困る人はこの先読まないでください。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　それなりに改行したところで始めるとしましょう。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　今回のEP7を観て、まず思うのは「こんなSTAR WARSが観たかった」だ。まるで寅さんシリーズを観ているようだった。毎回変わらない、寅さんが恋に落ちて、でも決して実ることなく恋破れて旅に出る。どの回を観ても基本パターンは変わらない。そんなことわかっているのにファンはまた観に行ってしまう。それは、そのパターンを愛しているからだ。もちろんそのパターンを愛していない人もいて、愛していない人は観に行かないし、愛している人は観に行く。今回のEP7も徐々に評価が出てきてて、賛否は分かれているみたい。で、それは単なる好みの問題でしかない。STAR WARSを愛している人は今回のを好きで、愛していない人は今回のを好きではない。それだけのことだろう。

　砂漠で人生の希望を見出せずにいる、まだ自分が何者なのかもわからない若者が、偶然の出会いによって導かれるように居場所を得ていく。そしてヒロインを助けるために敵の要塞に忍び込む。それを手助けする老人と一緒に大活躍するが、老人はそこで倒されてしまう。彼らの活躍によって敵の要塞は攻撃可能になり、秘密兵器による一撃の直前で大逆転。要塞は破壊されて主人公チームの勝利。大筋はまったく同じである。

　そこに父子の確執、ドロイドのチャーミングさ、Xウイングとタイファイター、異星人の酒場、フォースとダークサイドの闘い、狭いところを飛び回る戦闘機チェイスシーンといった要素がふんだんに盛り込まれ、まさにこれこそ38年前に熱狂したSTAR WARSといった感じだった。

　EP1からEP3までも面白かった。しかし今回のEP7を観てしまうと、やはりこれこそSTAR WARSだよなと思う。そう思える内容であり、作りである。

　映画は、最初に見た時の驚きと興奮が感動に占める割合が大きくて、もちろん何度も繰り返し観ることでより深く知ることも出来るのだが、最初のインパクトをもう一度感じることは難しい。STAR WARSについていえば、何度も観ることでそこにある精神性や人間関係、特に親子関係の業の深さなどを噛みしめることができるのでDVDでも繰り返し観るけれど、じゃあ最初の感動を同じように感じることができるのかというとそれは無理だ。そんなことは出来やしないのだ。でも、後にEP4と呼ばれるようになるSTAR WARSの最初のやつを初めて観た時の感動を、喜びを、ファンは体験したい。そんな無理だとわかっている感動を、今回のEP7はさせてくれたと思う。だから、大好きなあの作品をもう一度、初めて観るかのように楽しませてくれるという希有な体験が出来るという意味で、これまでの映画にはない新たな感動がEP7にはあったと思う。

　僕は当然のように初日の初回に観に行ったのだが、18:30に暗くなると恒例のオープニングが始まった。今の映像技術からすればチープでしかないオープニングが、「あの」STAR WARSが始まったのだなという気分にさせてくれた。そのタイムスリップ感は驚くほどだった。ある友人が「これは昔熱狂した人が大人になって、自分の子供を連れて再び熱狂を共有できる稀有な映画なのだ」と言っていた。まさにその通りだと思う。僕の息子はまだ3歳半なので今回は連れて行かなかったが、次は5歳なので一緒にいければいいなと思ってる。
　
　今回のSTAR WARSを一言で言うなら、テンドンである。同じことを繰り返すことで面白みを増すというお笑いの手法。無論これはお笑いではないのだけれど、38年前と同じことを繰り返すことで、オールドファンは素直に熱狂できた。それは間違いない。同じことだと非難する人は、きっとファンではないのだから007でも見てれば良かろう。EP7でテンドンをやってもらってある程度スッキリした上で、EP8以降で驚くような展開をみせてもらえればと心から願う。その期待感はますます高まってきた。

　息子3歳半の成長に驚くことがあります。ああ、学ばせていただいているなあと、思います。

　昨日のこと。保育園から帰る時に、日中降り続いてた雨が止んでいて、ああ、これでバス代が浮いたなと思った。次の朝は晴れる予報。もし帰りに雨で自転車を置いて帰ると翌朝晴れてるのにバスに乗ることに。バス好きの息子はそれで良かろうが、お父さんとしては勿体無いなが先に立つ。帰りに雨が止んでたことはとても大きなことなのだ。

　たかが、往復460円のことだけれど。

　もうすっかり暗くなった京都の街を自転車を漕ぐ。保育園から北にある自宅まで、平地に見えるけども川が南に向けて流れるそこはやっぱり傾斜があるわけで、体重が16kgほどの息子を乗せて漕ぐのは意外にしんどい。おまけにはしゃいで後部座席で身体を揺らすこともしばしばで、せっかく前方に推進力が生まれていた自転車は後部の揺れでたちまちふらつく。ふらついて転倒の危険があるほどではないが、推進力がなくなると、なだらかではあるものの登り坂をまた一から漕がなくてはならず、お父さんもへこたれる。

　そういう時、お父さんは自転車を停めて後ろを向き「そんなんしたら、お父さんはもう自転車こげない。もうおうちに帰られんから、もうずっとここにおることになる」と告げる。息子3歳半はにこやかなまま表情をこわばらせ、「もうしない」と言う。そのお決まりのセレモニーのあと、お父さんはまたゼロ推進力から自転車を漕ぎだす。毎日それの繰り返し。

　保育園から出たところで息子に「今日はどこ通って帰る？」と毎回聞いている。帰宅にはいくつかルートがあって、「線路のところ」「川のところ」「パン屋さんの前」というのが代表的なもの。帰宅時間が暗くなってからは川のところを通ることはありません。で、パン屋さんの前を通るのは1番楽なルートなのでお父さんもありがたいのだが、パン屋さんでメロンパンが買いたい息子をどうなだめすかして通り過ぎて帰るのかが課題で、頭が痛いルートでもある。たかが120円のメロンパンなのに。お金のこともあるけれど、帰宅時にメロンパンを買うと当たり前のように夕食前にメロンパンを食べることになり、それでご飯を食べたいという意欲が落ちる。なので、できるだけそれは避けて帰宅したい。ただ、育ち盛りで夕方の帰宅時にはもうおなかが空いているというのもわかるので、絶対禁止というつもりもなく、そこは息子のその時の表情とかなんとかを見ながら、お父さんなりに微妙な判断をしているつもり。買って帰るとお母さん（奥さん）からは「また買ってきたの？」と言われるけども。またって何だよw。どれだけ頻繁に買ってあげてしまってるのかオレ？ まあ頑張って夕飯を作ってるお母さんなのだから当然なのだが。

　息子はここしばらく「今日は何買って帰る？」と毎日言っていた。食べたいメロンパンを買いたいというより、何かを買うということに目覚めたようだ。なのでお父さんも防衛本能なのか教育なのかはわからないけど「毎日何か買うことは出来ない」と宣言。その宣言は毎日続く。「今日は何買う？」「毎日何か買うことは出来ない」の繰り返し。やりとりの後に息子ギャン泣きもしばしば。そんな自転車を街の人はどんな風に見てるのだろうか？気になるけど、気にしてはいられない。泣く息子は後部座席で身体を揺らす。それでも仕方ない。揺らされるとしんどいのだけども。

　そんな息子、先週から「毎日パン屋さんでパン買ったりしない」と言い始めた。わざわざ口に出して言う。なんだなんだ？何を学んだのか？嬉しい反面、心配にもなる。過度に我慢させてるのではないかと。

　僕の独り勝手な心配をよそに、昨晩息子は「明日は、保育園の帰りにドーナツをひとつ買って帰る」と言い出した。何故今日じゃなくて明日なのか。それはよくわからないけど、ドーナツは明日なのらしい。今日は買わないのだと。帰宅ルートはパン屋さんの前で、だから今日はパンなのかと戦々恐々としてたら、パン屋さんは素通り。そして「毎日パン買うのはせんの！」と力強く宣言。どのような理解なのかはわからないけど、とりあえずお父さんの言ってたことを理解したらしい。えらいなと思う。同時に自分の言ってることは正しいのか、言い方は正しいのかと、考えてしまう。我慢ばかりを覚えさせることが良いとは思わない。かといってなんでも買い与えるのが良いとも思わない。ではその微妙な線引きはどこであるべきなのか。往復460円のバス代か？1個120円のメロンパンなのか？大人の価値観と金銭感覚と子供の価値観と金銭感覚と。正解なんて無いけれど、親と子がDNA以外で共通する何かを獲得する過程なのだろうし、両方が一緒に学び成長している瞬間なのだと感じる。

　夕食後、息子が何かをしててちょっとした悪さをしたので諭した。単純に怒るのではなく叱るべきだと人は言うけど、僕は諭すべきだと思っている。抱きしめたり、目をじっと見ながら、何がいけないことだとお父さんが考えているのかを話す。冗長な物言いのお父さんがわかってもらいたくて諭すのだからそれはもう長くなるし、いっそ怒鳴って終わりの方が子供も楽なのではないかと僕自身も思うけど、僕のやり方なので仕方がない。すると昨晩の息子は「何でもかんでも怒ったらいかん」と反発。でも顔は笑ってる。なので「お父さんが怒るの、恐いの？」と聞くと「恐くない」と笑ってる。「お母さんが怒るのは？」と聞いてみると「お母さんのは恐い」と。お母さんの名誉のために言っておくと、お母さんは滅多に怒らないが、火の近くに行ったり、指を挟むかもしれないドアのところに手をやったり、台所の包丁をしまってる扉を開けようとしたり、椅子の上に立って飛び跳ねてて、その結果椅子が倒れるのではないかと心配になるような時にお母さんは声を上げて怒る（いや、怒るのではなく叱ってるのだけど、息子には怒るも叱るも諭すも全部「怒る」なだけ）。それだけだ。息子はお母さんのその怒りにはちゃんと応える。お父さんだってそんなに怒ったり諭したりばかりではないけれど、お父さんが怒るのは恐くないらしく、今のままのやり方で良いのかなあとちょっと考えてしまう。まあどうせそれしか出来ないので仕方ないんだけれど。

　まあ、そんな感じの日々です。基本的に息子にはのびのびと育って欲しいし、誰かの理不尽な要求に対しては、自分で考えて抗える人になって欲しいと勝手に考えてます。それは、「周りの雰囲気に縛られて、まっとうなことをやらずにやり過ごすこと」に抵抗感を持つ、そんな人になって欲しいというささやかな期待です。いや、成人後に本人が納得できるのであれば、親がどうこう言うことではないのだけれども。

　ブログのタイトルは、前野健太という歌うたいの人の曲にあるフレーズの一節です。内容に特に関係はありません。

　
　※追記：調べてみたら、「優しい光とは」というフレーズは前野健太の歌の中にはありませんでした。じゃあどこからこの言葉が降ってきたんだろう、そう考えてみるのですが、思い当たりません。言葉とは、そういうものなのでしょう、きっと。

　ほんのさっき、Twitterで「リムります」と宣言を受けてリムられた。毎日のようにたくさんの人からリムられているので、1人からリムられたところで大勢に影響はないんだけれども、わざわざ宣言されてリムられると、ちょっとだけ凹む。その人は以前から僕のツイートをリツイートなどたくさんしてくれていた人で、だからよけいに凹みます。

　25年も会社をやっていると何人もの人が履歴書を持って僕のところにやってきて「入れてくれ」と言われたこともしばしばで、そのうちのごく僅かな人と一緒に仕事をするのだけれども、様々な理由である時期がくれば離れていく。それはその人の個人的な事情があってのことで、僕が、会社が悪いのだということばかりではないはずなのに、離れていかれると、やっぱり凹む。同じ釜のメシを食った仲じゃないかというのは幻想で、良い時にはそんな幻想も有効なのだけれど、あんまり良くない時には幻想は幻想の悪い面ばかりを見せつけてきて、離れていける立場の人には離脱を促そうとする。でも離れていけない立場の人にとっては離脱もままならず、岸壁から去っていく船を見送るような、どうしようもない残され感に浸ることになる。以前旧い友人がテレビの報道の照明の仕事をやっていて、離島が噴火するとかで避難していく島民を乗せたフェリーが出発する様子を岸壁から映す、そこに照明を当てるという経験をしたそうで、うーん、君たちも一緒にそのフェリーで脱出した方が良かったんじゃないのかと言ったんだけれども、無事に生きて東京に戻ってきたから笑い話で済むけれど、カメラマンが「この画を撮る」と決めた以上、照明スタッフにフェリーに乗るという選択は無かったらしい。

　話を戻す。facebookという昔の知り合い引き寄せ装置はそんな昔のスタッフとも出会わせてくれたりして、かつてボーナスの支給の際にマイナス査定をしたことを告げたらキレて「やってらんない」とランチタイム前に飛び出していってそれっきりになってしまったスタッフともフレンドになったら「あの頃はガキでした。大変ご迷惑をおかけしました」と大人なメッセージを寄せてくれた。それを読んで安堵したものの、じゃあ自分はガキではなかったのかというと、うーん、たぶんガキだったよな、今でもきっとそうだし、と思う以外にない。

　先日友人が京都にやってきて、あれやこれやと四方山話。彼の悩みも吐露して、慰めるような話で返して。ま、メシでも食うかと結局その日は3度のメシをそいつと食った。家族ゴメンな。ただまあそのくらいの相手はそんなにたくさんいない訳で、そいつも悩みをぶちまけられる相手はきっとそんなにいないのだろうし、だからわざわざ京都に来てまで僕にぶちまけて言ったのだろうけれど、まあ友人というのはそういうものです。山の上に「王様の耳はロバの耳〜！」と叫べる穴が無いなら、そんな穴に近似の誰かを見つけて叫ばなければ、人はきっと生きていけないものなのだろう。

　キラキラレコードが創業25周年を昨日迎えて、僕は午前に必要最低限の仕事を済ませ、午後から近所の本屋を巡る旅に出た。京都には怪しげな本屋がたくさんあって、中でもオフィスの周囲にはそんなのがたくさんあって、巡っていると勇気が出る。何故かというと、そんなビジネスが成立するのかという問いに対して、それらの存在が「Yes」を明確に答えてくれるから。

　本屋にはいろいろな機能があって、京都でも最大級の丸善に行けばたいていの本が揃っていて、amazonと違って手に取ってから買うか買わないかを決めることが出来る。いわば倉庫のような存在だと思う。一方小さな個性的本屋というのは、セレクトショップのような様相で、狭いスペースに店主がこれだと思う本を並べている。例えていうならば友人の家に行って本棚を見せてもらうようなもので、それを買うことが出来る。スポーツ好きな友人ならスポーツ関連の本が並んでいるだろうし、哲学好きな友人なら哲学の本が並んでいるだろうし。もちろんそんなカテゴリーを超えた様々な本が並んでいても、そこになんらかの柱というか、スジのようなものがあって、それがその棚に持ち主の人格を反映させていく。だからそのセレクトショップ的本屋が自分の人格と近い何かを持っていれば、そこで買う本は自分に馴染んでいくだろうし、当たり外れは少なくなる。丸善のようなメガストアに行って、さあ何を買おうかと思ってみても、店内にあるすべての本をチェックするなんてことはほぼ無理で、目的意識が無ければ途方に暮れるような気持ちになってしまう。だから途方に暮れないように、メガ書店で時間を無駄にしないで良いように、そういう小さな本屋主人が事前にセレクトしてくれている本棚を見に行って、自分が読むべき本を選ぶ。それで、良いのではないだろうか。街のあちこちにある、漫画雑誌と週刊誌と、一部の文庫本とベストセラーとビジネス書だけが取次の配本指示に従って置かれているだけの書店はどんどん潰れていっているけれど、それはその店に個性が無いからであって、個性が無い小さな店に行くよりは、メガ書店に行った方がいい。セレクトショップ的な本屋は、それとは別の価値として、そこで成立しているのだろう。

　京都のこの一角には、中古レコード屋もたくさんあって、そういうのはこの地域の文化の高さを象徴しているのだと思う。メガ書店に行くだけでいいのであれば、amazonの方がきっと利用価値は高い。直接手に取って見られるということがアドバンテージとしてあるだけ。CDショップなどは、どうせ封を開けて見ることも出来ないのだから、amazonとの差が無い。そのベクトルでだけ本屋やCDショップを見ているのでは、セレクトショップ的な本屋が存在できる余地はない。だとすれば、セレクトショップ的な本屋が多数存在するこの街には、amazon的ベクトル以外の何かを持った人が一定数以上いるのだと言えるだろう。

　CD、というかアーチストはメジャーとインディーズの垣根が無くなり、その結果百花繚乱という様相を呈している。その中で「売れている」ということでしか音楽をとらえられない人にとっては、自分の好きな音楽を自ら決めなければならないという状況が訪れ、だから選んで買ったり聴いたりすることのハードルは高くなっているし、アーチストの立場からすれば、ライバルが多くて客の取り合いが激しくなるし、ある程度の集客が出来るようになっても巨万の富なんて夢を描くのも難しいという状況で、ますます活動は厳しくなる一方である。

　そんな時代のレーベルの役割とは、リスナーに対してはセレクトショップ的な「こんなのを聴くのが良いと思うよ」というコンシェルジュ的なものにますますなっていくだろうし、アーチストに対しては、「こんな時代にどうやって成長することが可能なのか」という根源的な問いに対する答えを提示する、先生的なものになっていくのだろう。それがビジネスとしてどう成立するのかは、若者に金が回りにくい現在の経済状況で本当に混迷しているけれども、25年もやってきたことをそうそう捨て去るわけにもいかないし、こんなオッサンの経験は、日本でもかなり珍しい何かだと多少なりとも自負しているので、どこかの誰かが自分を役割として求めてくれているに違いないと思い込んで、またしばらくやって行こうと思います。そんなことは妄想に過ぎないとは解っていたとしても。

　そんなわけで、お願いですから25周年企画の商品を買ってください。よろしくお願いします。

【Set -A：25周年シンプルセット】1620円

【Set -B：25年を振り返るスペシャル】3500円

【Set -C：25年を代表するスペシャル 】3500円

　息子の保育園のおゆうぎ会が開かれた。昨年のおゆうぎ会ではギャン泣きしてて、客席からは「みっともない」的なヤジもとんだ我が息子だが、今年はまったく泣かなかったし、ちゃんと歌も歌えて、演技もできた。成長した。

　だが、なんか淋しい。この子はもう緊張で泣いたりしないのか。そう思うとなんか淋しい。今日のビデオを撮って、家に帰って何度か見る。上手にできてるから感動もするし、何度見ても楽しい。でも、淋しいのだ。

　だって、これから毎年おゆうぎ会だなんだと行事はあって、そのたびに行って、見て、ビデオも撮る。しかし、きっと息子はもう泣かないわけで、泣かずに淡々と役割をこなす息子の姿が繰り返される。そんなのつまらないじゃないか。えっ、なにがつまらないのかって？　その気持ちが共有できないという人がいることは理解する。例えばアーチストのライブに行って、演出された流れが滞りなく進んでいって感動。それはそれで素晴らしい。でも、何百回と行った僕のライブ歴で、記憶に残っているのはやはりハプニングなのだ。そういうものが、記憶に残るのだ。

　スポーツなどでも、例えば走り高飛びで「こんなの飛べるのか？」と思うくらいの高さのバーに向かって走っていくところが面白い。ラグビーで点差を付けられてて「もうダメか」と思ってるあと数分での攻撃が面白い。野球9回裏1点差で負けているところが面白い。コールド寸前みたいな試合は面白くないじゃないか。

　いや、そんなんともちょっと違うな。何だろうこの気持ち。上手に歌えるのはとてもいいことだ。先生の言う通りにできるようになることを「飼い慣らされている」的なことで揶揄する向きもあって、まあまったく無批判に言いなりというのは困るけれど、おゆうぎ会で上手に歌えることに何の問題があろうか。ロールプレイングをできる能力がある上で「やる」「やらない」を選択できる自由意志を持つことが大事なのであって、能力が無いから「やらない」というのはどうかと思う。そういう意味でも、やれるようになること自体は良いことだし大切なことだ。

　おそらく、泣かずにできるようになったことが、ひとつ親離れに近い何かを感じさせるのだろうと思う。成長とはそういうことで、だから、嬉しいんだけれども、淋しくもあるのだろう。

　まあ、家では相変わらずによく泣くし、そこまで淋しくなるほどのことかという気持ちも一方にありつつ、でもやっぱり成長なんだよなこれ。そしてそういうちょっとしたことに淋しくなるというのは、自分が息子の成長に大きく関与しているからだろうと、なんとか自分を納得させてみる。それでもやっぱり淋しいんだけれども。

　今でも会ってみたいなと思う友達はみつながくんだ。みつながくんというのは保育園時代の友達で、よく遊んだ。あの頃のことはほとんど覚えてないんだけれども、彼のお母さんがやっていた美容院に遊びに行ってた時の光景は今でもカラーで思い出せる。そのお店には毛の長い猫が何匹かいて、動物のことは好きではなかったんだけれど、だから猫がいる場所になんて行きたくなかったんだけれど、その美容院には何度も行った。親友がいるところだから、当然だ。

　みつながくんは、お母さんが癌になり、ほどなく亡くなった。保育園の卒園式には病気を押して出席されてたと後に僕の母から聞いた。だから、保育園の間はずっと友達だったのだろう。でも小学校の校区が違っていたのでやがて疎遠に。気づいたら美容院は閉店していた。僕とみつながくんをつなぐ糸は永遠に切れたままになった。

　その後どうしているんだろうか。生きていれば彼も51歳。オッサンだろう。もし仮に今会えたとしても、何を話せばいいのかなんてわからない。多分、話すことなんてないのだろう。だから、会わない方がいいのかもしれない。

　それは全盛期に引退して二度とカムバックしないかつてのアイドルがいつまでも記憶の中で美しいままで、引退したもののやはり活動の場を芸能界に求めて戻ってきた人は記憶の中でも徐々に容姿が劣化していくのと同じこと。もちろんいい歳の取り方をするケースもあるが、逆の場合もある。それに対して記憶の中だけに生き続ける人は、いつまでも変わらないどころか、却って美化されたりもする。

　息子を保育園に送り迎えなどしていると、当然のように保育士の先生ともひとことふたこと言葉を交わす。20代半ばくらいだろうか。息子のことを可愛がってくれる。ありがたいことだ。僕にだって保育園時代があって、僕が3歳の時に25歳だった先生は、僕が51歳の今は73歳ということになる。もしも会いに行くことがあったなら、可愛がってくれるだろうか。いや、そんなことはないな。懐かしく思ってくれることはあっても、可愛がってくれるわけはない。それどころか、現実には覚えてさえいない可能性の方が高いだろう。ええ、僕だってあの頃の保育士の先生のことなんてぼんやりとしか覚えていないのだから。

　先日、友人からいろいろな相談を受けた。「こんなこと話せるのは大島くらいなんだよ」といって、話をしてくれた。聞いてやるくらいしか出来ることはないのだが、その聞いてやるをするためには、コイツには話してもいいよなと思ってもらえなければならない。そう思われているとしたら、ありがたいことだ。聞いてやるくらいしかできないけれど、せいぜい聞いてやろうと思う。思えば、僕はそういう感じに思われることが多いらしい。やたらと愚痴を聞かされる。学生時代にも、社会人になってからも、今思えば鬱になった友人2人から相談を受けたことがある。特徴としては2mもない距離で話しているのに彼の視線は僕の後方30mくらい先を見ている感じ。それでも、淡々と話を聞くし、彼の話が途切れれば僕の方から他愛もないことを喋る。それでその場はなんとか収まる。そんなんで良かったのかなあ。2人とも、その後失踪してしまった。他に何か出来たことがあったんじゃないかなあとは思うけれど、じゃあ何が出来たんだと自問すると、答えは出てこない。

　息子にも友達がいるようで、保育園のお友達のことを時々話してくれる。先日近くのショッピングセンターに行ったとき、同級生が息子を発見して駆け寄ってきてくれた。ありがたいことだ。そういう3歳児の友情というのは、これからどうなっていくのだろうか。自分のことでいえば、保育園時代からの友人で今もつながっているのは1人だけだ。ほとんどが同じ小学校に行き、同じ中学校に行ったので、知り合いは沢山いる。でもつながっているのは1人だけだ。もちろん、みつながくんではない。インターネットを25歳過ぎで体験した僕の時代と、生まれた時からネットが当たり前の社会に生きる息子では、友人関係の維持というものも大きく違ってくるのだろう。では、高校時代以降の友人とたくさんfacebookでつながっていることが自分の幸せにとってどう寄与しているのかというと、それはそれで絶対的幸福とばかりはいえないので、友人関係をずっと維持できることが幸せと断言するつもりもないのだけれども。

　それに、友人関係が豊かだからといって、本当に幸せな世の中がこれから来るとも限らないのだけれども。
　
　では、僕の好きな名言をひとつ。

　「空気と光と、そして友達の愛。これだけが残っていれば、気を落とすことはない。」
　　　　　　　　　（ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。）

　そう、友達がいれば、どんな状況になっても気を落とすことはないのです、多分。