オーバーツーリズムという言葉がある。これを日本語にするときに、観光公害という言葉を使う人がいる。なんてことだろうと思う。この言葉がやがて独り歩きして、観光客が増えることを観光公害という言葉で表現していいんだという人が増えるし、その結果観光客のことを有毒ガスのように感じる人が出てくる。

　アホか。

　こういう感覚の人が増えていくのを見ると、本当に日本人の品性はベースが下劣なのかなあと思わずにいられない。かつて日本がバブル景気の頃にたくさん海外旅行するようになって、世界の各地で蛮行を繰り返した。まあ蛮行といってもそんなにひどくはなかったろうけれど、時折観光名所に相合い傘の落書きをしたというのがニュースになって。その昔にはイエロージャップとか言われて。そういうの、嫌だったし、悔しかったし。そりゃあ下劣な日本人もいますよ。でも全員そうじゃないし。全部まとめて日本人はと言われることに、その愚かな日本人に自分が含まれることに忸怩たる思いをした人は少なくないはず。なのに、今多くの人が外国人観光客の増加に眉をひそめたり、観光公害なんて言葉を生み出して悦に入っている。そういうの、なんか嫌だ。

　昨日、家の近くにある紅葉の名所圓光寺に行って。とてもきれいだった。当然写真を撮りたい。誰もがそうでしょう。そんな中1人の人がいい写真を撮ろうとして苔のエリアに片足を踏み込んでいた。「ちょっとちょっと、そこ苔ですよ」と言ってもよくわからないみたいだったので、「It’s mos」というとやっとわかったらしく、「sorry, sorry」と平謝り。OKと言ってその場を離れると、しばらくして追いかけてきて「So sorry, I’m sorry」と何度も謝ってきた。ノープロブレム、もうそんなに謝らなくていいですよ。僕に謝られても僕はお寺の人じゃないし。それに誰にだって過ちはあるものですから。顔つきがアジアンのその人がどこの国の人なのかはわかないけど、どこの人でもどの人種でもいいことで、少なくともその人はもう苔に足を踏み入れたりはしないと思う。

　他のシーンでもそういう行為を目にすることは多いはず。その時にちょっと注意してあげれば済むことなのに、怪訝に思う人はその場では何も言わずに、あとでネットで悪意を書き込むのではないだろうか。全部がそうだとは言わないけれど。その場で直接注意して、ソーリー、ノープロブレム、ドントウォーリーと言い合って握手すればいいだけのことが、一方だけが嫌悪感を持ち続けて、異国でのある行為が駄目なことだとは理解できないその旅人は、理解してないのだからまた同じことをやる。良いことなどひとつもない。

　先日京都のローカルニュースでオーバーツーリズムのことをやってて。伏見稲荷では観光客数が5年前の8倍になってるらしく、そりゃあいつ行っても大混雑だよなあと納得。街の世話役みたいな人が街に落ちてるゴミを拾っては捨てるということを毎日繰り返してるらしいけれど、イタチごっこでとても掃除しきれないと。これもね、ちゃんとゴミ箱を設置すればいいんじゃないかと思う。今日もガイドをやって、待ち合わせ場所に現れたアメリカ人が、子供に食べさせてたアイスのカップをどこに捨てればいいかと言うけど、そのへんにはゴミ箱がなくて。だから常に持ち歩いてるコンビニ袋に入れて、僕が持って歩いてて。ガイドが終わってランチ中でも結局まだ捨てられてない。本当に京都の町並みにはゴミ箱がない。だから捨てられない。ゴミは持ち帰りなさいが原則なのはよくわかる。だけどそれにしてもゴミ箱無さすぎだ。ゴミ処理にはお金がかかるのはわかるけれど、でもどっちにしてもゴミは出るし、どこかで処理しなければならない。人が捨てられたゴミを拾って回収するくらいなら、ゴミ箱を設置すればちゃんとそこにすててくれるし、人件費も少なくて済むんじゃないかと思う。思うだけだけれど。

　その伏見稲荷の世話人みたいな人が啓蒙活動で小学校を訪れて、ゴミを捨てないで的な禁止事項の標識を子どもに作らせる授業をやったらしい。たいした悪意はないんだろうけれど、学校の授業で「観光客が増えてゴミが放置されると困るから捨てないでねと伝えたい」ということを子どもに言う。それで何も考えてなかった子どもが「外国人観光客がゴミを捨てるのか、悪いやつらだ」と刷り込まれるんじゃないだろうかとドキドキする。しかし子どもたちからは「線路のところで自撮りをしたら危ないよ、危険だよ」という標識ができてきて。子供の目線は外国人観光客が迷惑というものじゃなくて、外国人観光客が危険な目に遭わないようにというもので、大人の世話人の人は目からウロコだったらしい。世話役の人が「子どもに教えられた」とコメントをしていた。

　オーバーツーリズムは決して観光公害なんかじゃなくて、ちょっとしたミスマッチみたいなものだと思う。なぜ新型iPhone発売の時に銀座に並ぶ人たちのことをiPhone公害といわないのだろうか。パンケーキ屋に並ぶ若者のことをパンケーキ公害といわないのだろうか。初詣で深夜に明治神宮に集まる参拝者のことを初詣公害といわないのだろうか。言うはずがない。だったら外国人観光客だって観光公害のはずがないじゃないか。人間はすぐに自分たちに都合の悪い何かのことを公害とか決めつけて差別したり悪意を向ける。家電産業が完全に力を失った今、観光は国家的な重要な産業のはず。資源がない国は外貨を稼がなきゃやっていけないのだから。京都のバスが観光客で一杯で市民が乗れないのなら、なぜバスの便数を増やさないのだ。増やせば市民にとっても便利になる。増便することで経費がかかるのなら、例えば市民には市民パスみたいなのを作って、割安で乗れるようにして市民以外の客の運賃を上げるとかも可能なはず。そういうことはしないで、バスが混むから観光公害とかよく言うわ。と、思います。

　最近ガイドをする頻度が増えてきて、有名スポットを案内したりする。できるだけ綺麗な街並を見せてあげたいからそういうルートを選んで歩く。そういう場所は他の観光客にも人気だから大混雑の場所ももちろんある。花見小路は人気のスポットで、写真を撮っても自分たち以外の人が必ず映り込む。雰囲気のある街並で他人が映らない写真を撮りたいのは自然な欲求で、だから細い路地に入り込んで写真を撮ろうとする人が続出したせいで、その界隈の私道では写真禁止となった。花見小路は芸舞妓さんが活動するエリアで、彼女たちの姿を撮影したい気持ちもわかるし、時としてついついタッチしてしまう観光客もいるらしい。そういうことで、写真禁止の看板には舞妓さんタッチ禁止のピクトグラムもある。そりゃそうだ。そんなことをやっちゃいけない。なので案内するゲストにもそのことを伝える。そうすると全員わかってくれる。花見小路のメインの通りは市の道路なので写真禁止ではない。だからここは撮影OKだと教えてあげる。嬉しそうにその範囲の中で写真を撮っている。

　高台寺近くの石塀小路も雰囲気のある通りだ。しかしそこは近年写真撮影が禁止されている。だからそのこともちゃんと伝える。そうしたらちゃんとわかってくれる。OK、写真は撮らないよ。目に焼き付けるから大丈夫だ。そういうやり取りの横でスマホで撮影している人たちがいたりもする。だからといって「ちょっとだけだから自分も写真撮りたいんだよ」と言い出すゲストはいない。どちらかというと僕と同じ立場で「写真撮っちゃいけないね」と言ってくれる。言えばちゃんと通じるんだ。

　オーバーツーリズムは、こちらの受け入れ態勢が追いついていないということに他ならない。能力を超えれば弊害は起きる。何だってそうだ。例えば子育てを母親ひとりに押し付けて、5人の子育てをして家事をして、正社員として働いてシングルマザー家庭を全部ちゃんとやれと言われたらそりゃあキャパオーバーになるよ。その場合、それだけのことをきちんとこなせない母親がダメなのか。親の言うことをきかずに泣いたり騒いだりする子どもがダメなのか。多分違うと思う。オーバーツーリズムの問題もそれに似てて、キャパオーバーになっている状況を改善しないで非難だけしている大人に問題があるんだと思う。行政がインフラを整備して、啓蒙活動をして。京都に外国人観光客が押し寄せて「人が多すぎる、自分の街じゃないみたいだ」とか言ってる人も多いけど、東京なんて日本人だけで多すぎだし、あそこは全体が他所者の街であって、それに較べればまだまだゆったりしてるんじゃないかなあと、個人的には思う。

　観光地にたくさん人が訪れて、人気のスポットには入口で何百人もの列が。ようやく待って中に入っても既に何百人の人がいるし、後から後から入ってくるから混雑して雰囲気がどうとか。それも対処の仕方はいろいろあるわけで。例えば人数限定にして、その代わり入場料が普通のところの10倍近くとか。世界遺産の苔寺も2週間以上前までに往復はがきで予約して、入場料が3000円。宮内庁管理の場所では昨年から桂離宮が予約&入場料制になって。一方では京都御所は数年前に予約不要でしかも入場無料。修学院離宮は無料で予約必要、だけど市内からはちょっと遠い。どのやり方が正解なのかはよくわからないけれど、いろいろなやり方をして、調整をしていけば、どうしても行きたい人は行くだろうし、高いから行かないという人は避けて、そのスポットがオーバーになることは無くなるのかもしれない。

　公害は、排出する何かを処理する能力がなかったり、そもそも処理しようという気持ちがない時に起きる悲劇で、社会全体がそれに真剣に対処することで減らせるし、実際日本はそうしてきたはず。技術も能力も無く、対応しようという気持ちもないのなら、街並や旧い建物の雰囲気の良さに見合った精神がその街には存在していないということでもあり、街が持つ価値に見合った心を住民が持ち合わせていないと白状しているようなものではないかなあと思ったりします。

　先月末から2日間、大学時代の友人数名が京都に来て、一緒に京都観光をした。

　2013年の夏に「大人の修学旅行」と銘打って実施したのが最初。2010年頃には外国人ばかりだったfacebookにも日本人の参加者が増えてきて。大学時代の友人たちがつながりはじめた。2013年の正月に、東京で語学クラスの同窓会を開いて、僕も京都からわざわざ参加した。その席で「じゃあ次は京都で同窓会だ〜」と勝手なことを言い、飲み会の席だからそこそこ盛上がり、普通ならそこで飲み会での戯言として自然消滅する話なのに、根がマメなのかしつこいのか、僕が実施に移そうと試みて、3人がわざわざ東京から参加するといってくれて、大人の修学旅行は実現に至った。桂離宮や嵐山などを巡って、夜は鴨川の床席で食事したりして。楽しかった。

　その後、第2回を実施するということはしばらくなくて。そりゃそうだろう、修学旅行なんてそんなに何度もやるものではない。だがハプニングが起きて、実施することに。その語学クラスの友人が2016年に突然亡くなり、そのお別れ会を東京と京都で開催することになり、京都の会に併せて大人の修学旅行を。亡くなった友人が僕に会いに来た時に巡った寺社を中心に市内観光。ちょっともの悲しい感じもありつつ、旧友が集まるのだから、それなりの楽しさもあり。

　で、2013年と2016年にやったのだから、3年おきにということで今年2019年6月30日〜7月1日の日程で開催。今回は6名の参加と、G20サミットに取材で来てたジャーナリズムの同級生2人が30日のランチのみ参加で、結構な賑わい。会を重ねるごとに人数が増えてきた。

　6名参加といっても、ずっと6人が2日間一緒だったわけではなくて、1人は30日のみの参加、1人は30日の夜10時から参加、1人は1日の朝食までで帰京、1人は1日のお昼まで観光して帰京。結局最初から最後まで一緒だったのは僕ともう1人という感じ。いや、それが悪いということではなくて、みんなそれぞれの都合とかあるから、そういう途中から抜けなきゃいけないのは最初からわかっているのに参加してくれているというのが嬉しい。こういう旅行企画をやっているのは、僕の根がマメなのでも、しつこいのでもなくて、みんなに会いたいからやっているのだ実際のところは。東京の大学で出会った友人たちで、割と多くの同級生が東京に暮らしてて、僕が京都に引越して来たので距離的には離れたけれど、現実には京都にいる方が東京にいた頃よりも友人と会う頻度は増えている。それでも関西方面に出張があったついでというケースに限られるので、なかなか会えない人というのはやっぱりいる。

　まあそんな感じで、3年ぶりの大人の修学旅行。あっという間の2日間だった。終わってから、参加した友人たちがfacebookで「大学の語学クラスの友人たちとの京都旅、楽しかった。」といった投稿をしていたのを目にする。そこに「素敵な同窓会ですね」というコメントが付いていた。たくさん撮影した中の厳選写真なので素敵に映るのはまあそうだろうとも思うが、考えてみれば同級生同士で旅行するというのは、日頃もずっと付き合いが続いている大親友ならともかく、いつもは疎遠な旧友との旅行だと、そういう機会はなかなか無いことかもしれない。実際、参加した友人のひとりからは「家族以外との旅行は21年ぶりだった」という話を聞いた。家族を持って、子供が育っている期間には、家族以外と旅行するような非日常時間はなかなか持てないというのはよくわかるし、子育ても一段落するには10数年かかり、ようやく自由な時間が持てるようになった時に、そういう旅行をする相手がすぐにいるかというとそれも難しいし、だから、やはり旧友との時間が楽しかったという記憶のある人にとっては、素敵な同窓会旅行だと映るのも不思議ではないのかもしれない。

　なので、3年後の2022年にも企画しようと思います。僕にとっては6年後は60代になるし、歳を取っていけばまた別の事情でそんな旅行も簡単ではなくなっていく。あと2回くらいできれば御の字ではないだろうか。じゃあ3年に一度とかじゃなく毎年やればいいじゃないかという考えもあるだろうが、毎年やれる企画ではないとも思う。3年に一度の心の贅沢だから、また参加しようという気にもなるものだろう。

　まあ、そういう企画じゃなくても、個々人で京都におこしの際はぜひ声をおかけください。旧友の人限定ですけどね。日程次第ではお断りしてしまわなきゃいけない可能性もあるかもしれませんけど、懲りずにお声をおかけくださいね。いろいろ観光ルートを考えたりしますからね。

　先日、STAR WARSのエピソード9の予告編が公開された。友人の投稿リンクで知り、すかさず見る。昔なら映画館に行かなければ見られないとか、テレビでスポットCMがいつ流されるのかわからなくて地団駄踏んでたとかだっただろうけれど、今はYouTubeでググればすぐに見られる。いやあ、良い時代になったものだ。

　毎回思うが、予告編で新しいシーンを見るとワクワクする。他の映画ではこうはいかない。子供の頃から公開時に見続けてきて、不動のマイフェイバリット映画ナンバーワンのシリーズで、次の新作公開はいつかいつかと待ち続けてきた40数年。それが今完結を迎えようというのだから、他の映画と同じ感覚でいられようはずもない。

　この予告編を見て、まず思ったのは「すごい！」である。すごいよ、すごくないか？ すごいよね。まあどんな予告編でも本編の映像が使われているだけですごいと思うんだろうけれど、やっぱりすごい。レイが砂漠地帯で怪しげな飛行船（おそらくカイロレンが乗っている）から一旦逃げる方向に走り始めて、追いつかれる間際でジャンプして反転してライトセーバーで切り掛かる。すごいアクションだぞ。でもなぜそこで一旦逃げる方向に走るんだという疑問はある。でも本編を見ればその疑問も解消するのだろう。年老いたランドカルリジアンがファルコン号に乗って高らかに笑ってるところも、亡くなったキャリーフィッシャー演じるレイア姫のシーンも、みんなすごい。いや何がすごいって具体的にはいえないんだけれども、すごい。それを見ていられるだけでもうすごい。

　副題は「THE RISE OF SKYWALKER」。スカイウォーカーがライズするのだ。これが何を意味するのかはわからない。だがスターウォーズシリーズ9作がスカイウォーカー家の物語であることを考えると、その収束する9作目がスカイウォーカーがライズするというのだから趣き深い。予告編の冒頭で流れるナレーションがおそらくルークの声で、お前の中には何代ものジェネレーションが流れていると語る。そして、だが、これはお前の戦いなのだとも言う。

　ネットでは「THE RISE OF SKYWALKER」というタイトルが何を意味するのかについていろいろと発言が出てきているようだ。スカイウォーカーがライズするってどういうことなんだと、レイは誰の娘なんだとか、いろいろ。アメリカでのイベントにはイアンマクダミードが出てきて、パルパティーンが本編に登場するのではという話題も盛上がっているし、予告編の最後の笑い声はパルパティーンのものなのではないかと言われているし、僕もそうじゃないかと感じている。あまり妙な予測をしても意味は無いし、12月に本編を見れば良いのであって、そんな噂なんてどうでもいい。

　僕としては、スカイウォーカーがライズするという物語の予告編で、ライトセーバーを持つレイに向かってルークが「BUT IT IS YOUR FIGHT」と言っているのは、必ずしもレイの戦いということではなくて、文字通り「YOUR FIGHT」なのではないかと思うのだ。レイにはレイの戦いがあり、レイアにはレイアの戦いがあり、ルークにはルークの、フィンにはフィンの、レンにはレンの、ポーダメロンにはポーダメロンの、ランドにはランドの、それぞれの戦いがある。そしてなにより、観ている観客にも１人１人に自分の戦いがあって、誰かの戦いに心を寄せて頼って任せきりにしてる場合ではないのだろう。個々の戦いは他の誰の戦いとも違っていて、規模や重さも全部違うだろう。それはジェダイの重みを背負って戦うレイの戦いと反乱軍の若きリーダーとして戦うポーの戦いがまるで違うように、観客それぞれの抱える戦いも１人１人違っていて。だから、STAR WARSの新作がどのようなものであっても、それが面白いとか面白くないとか言っている時点で、自分の戦いを見失っているということなのだろう。少なくとも僕は、生きる上での大きな示唆とか哲学を提示し続けてきたSTAR WARSシリーズがどのようなものであったとしても、きっとひとつの結果として現実のように受け入れるのだろう。そこで描かれている戦いの、背景も過程も結果も、ひとつの誰かの戦いとして受け入れ、解釈し、続く自分自身の戦いへのサジェスチョンとして噛み砕くのではないだろうか。

　まあ難しいことを言ってる場合じゃないですね。当面の問題としては、この半年くらいで急速にSTAR WARSファンとなって、毎日のようにおもちゃのライトセーバーを振り回し、STAR WARSライトノベルを熱心に読み、STAR WARSキャラクターブックを眺めては絵を描き、昨日なんか雨が降った日曜日に朝からSTAR WARS EP4をDVDで4回も繰り返し見ていた小学一年生の息子が小学校に行っている金曜日にお父さんだけこっそり映画館に行って観ることが果たしてできるのだろうかということ。だって、早く観たいがためにEP1とEP3の時にはロスアンゼルスまで行って初日に観たという僕が、息子と一緒に観るために1日待つというのはけっこうヘビーだし、第一、息子と一緒に観るのは吹き替え版だ。最初に観るのは字幕で観たいじゃないか……。ここにも父と息子の戦いはある。我が家の小さくとも大きな戦いが……。

　

　ご無沙汰しています。
　2月はまったく書かず、3月ももう最終日。ブログのことを忘れてたのかと叱られると、ハイハイ誠にそのとおりですと、開き直るしかない。悪態ですな。

　その間何をしていたのかというと、息子の保育園卒園に関してバタバタしていたと……。

　先日3月25日に百万遍保育園を、息子6歳9ヶ月が卒園した。で、2月10日に保育園生活の集大成ともいえるイベント「音楽フェスティバル」が、京都を代表するホール、ロームシアター京都で行われた。それに向けたミーティングということで、保護者が園に召集されたのが1月下旬。何の心準備もなく行くと、「卒園式でいくつかのことを保護者の皆さんにお願いしたい」と先生が真剣な表情で。うっ、これは図られたなと思った。

　保護者に課せられたのは、音楽フェスティバルで花束贈呈する係と、その花束を準備する係、卒園式で保護者代表の謝辞を述べる係、卒園式後の茶話会を準備する係、プレゼント準備係、その後の保護者のランチパーティを仕切る係、そして最後に全体の会計。
　これだけ役目があれば、何もしないというのはナシだ。これまで春の音楽イベントのお手伝いや芋掘り遠足のお手伝いなど、保護者のお手伝いをほぼ全部参加してきたのだから、今回は他の人という理屈も成り立つが、それよりは、今回も何かやらせていただこうという理屈の方が清々しい。
　では、何をやれば？
　花束贈呈は、見栄えからして女性の方が華やかでいいのではないかと勝手に僕の役目ではないと解釈。花束準備、茶話会関連、ランチパーティ仕切りは、複数の保護者で進めていくことになりそうで、他のお母さんたちとマメに連絡をとって勧めていくのは結構ハードルが高い。これまで毎日送り迎えで保育園に顔を出してても、他のお母さん同士が仲良さげに会話してるのを見てて、そこにオッサンが自然な感じで参加していくのは難しいよなあと思っていた。そこでいきなりお母さんたちと一緒に作業する係をやりたいと自分から言うのはちょっと気が引ける。それにマメなやり取り苦手だし。会計なんて責任あることは無理だし、そもそも会計こそすべての担当の人とマメにやり取りして差配しなければならないわけで、そんなの無理だ。
　ということで、残るのは謝辞。ここまで考えるのに約10秒。その10秒の間に、謝辞は例年お父さんの仕事であるというオーラが部屋中に沸き立った。ミーティングに参加している男性は5人。1人はお父さんではなくおじいちゃん。2人が外国籍のお父さんで、日本語の謝辞を押し付ける感じではない。残った2人の中では明らかに僕の方が年上だ。このままだと確実に大島さんやってください的な流れになるし、そうならずに年下のお父さんに決まったり、別のお母さんに決まったりしたら余計に後味悪そうだし。そんな訳で、だったら立候補しようと、すぐさま「じゃあ僕が謝辞をやりまーす」と手を挙げた。例年謝辞はなかなか決まらないらしく、「あっ、謝辞もう決まったの？」という声も漏れ、拍手まで起こった。

　そんな訳で、謝辞を担当する2ヶ月は始まったのだった。

　音楽フェスティバルまでは放置していたものの、終わるとさすがに原稿に着手しなきゃと思い始める。第一稿を書き上げ、おお、感動的なのができたなと思い、1日寝かせて読み直してみると、これが陳腐。なんだこの感動押し売りみたいな内容は。ただただ感謝してるみたいな、一体何故感謝してるのかが曖昧な感じで。慌てて書き直す。そこで一気に書き上げたものの、読み直すたびに手を入れてて、屋上屋を架すみたいなことになってきて、バッサリ切り落としたり、もはや推敲というより書き直しに近いみたいなことを何度か繰り返し、ようやく完成したのが卒園の2日前。話に具体性を盛り込みたいのにイマイチしっくり来てなかったところに起きたのがイチローの引退。会見で子どもたちへのメッセージを述べていて、これだよこれ、タイムリーな話題だし、その内容もほぼ完成の原稿に合う。ということで急遽取り入れ、完成した。

　気持ちとしては、原稿を読み上げるのはしたくなかった。なので何回も読み、心の中で暗唱した。しかし読み上げ想定では約9分半の原稿。覚えるには長すぎる。歳とともに記憶力の低下は実感しており、よく考えると若い頃から記憶には自信ないのだった。ただでさえ本番は緊張するだろうし、頑張って覚えるけども記憶が飛んで真っ白になることも想定し、少々大きめのフォントでプリントアウト。あとは当日を待つのみだ。

　話は遡るが、音楽フェスティバル当日にそれまで話したことのないお母さんに呼び止められ、「あの、大島さんは音楽のお仕事をされてるそうで……」と。茶話会で使うBGMの選曲をしていただけないかということだった。そんなのはお安いご用だし、むしろ謝辞担当になってなければそれやりたいと思ってたくらいの得意分野なので、2つ返事で良いですよと。曲は運動会やおゆうぎ会で使われたことのある曲が良いと思いますよと提案すると、おお、それ良いですねと。和んだのか「もしかして、映像の編集とかできますか？」と言うので、ははあ、なるほどと思い、「できますよ。それを茶話会で流すためのDVDにして焼くこともできますよ」と。めっちゃ喜ばれた。数年前に友人の知り合いから頼まれ、そこの幼稚園の卒園動画スライドショーを作ってあげたことあるし。自分の子供の保育園でもそういうことあればやるのになと思ってたところだった。謝辞やってその他のこともやりますやりますと手を挙げるのは出過ぎたマネになると自重してたが、お願いされれば断る理由などあろうはずもない。

　その後何度かやり取り。素材を集めてもらい、スライドショーの制作。具体的には茶話会で思い出深い歌をみんなで歌うためのビデオを、歌詞が表示されるカラオケビデオを作るというもの。4分以上のサイズに園児29人の写真を1枚ずつとなると、個人的には間延びした印象だった。その歌とは数ヶ月前のおゆうぎ会で子供たちが歌った曲だったので、その時のビデオを引っ張り出してきて、映像に挿し込む。オリジナルトラックと園児の歌ではテンポが違うけど、それを合わせるのはMV制作でいつもやってること。チョチョイの作業で完成した。
　まあ、そういう作業を通じ、これまで話したこともなかった保護者とやり取りをすることになり、日々のお迎えで顔をあわせると挨拶したり、話をしたりできるようになった。ありがたいことだったなあ。

　そして卒園式当日。謝辞は園長先生の挨拶の次。会場前の方の、副延長先生がお話する辺りのマイクで喋るのかと思っていたら、なんと壇上に上がって喋るのだと。そんなの聞いてないよ。緊張が増す。でも確実に自分の番はやってくる。紹介を受け、いざ壇上に。

　緊張した。壇上からの光景は、自分に一斉に視線が注がれているというもの。知り合いのお父さんが優しい笑顔を投げかけていてくれる。最前列の子供たちが真剣そのものの眼でこちらを見てる。息子は、ちょっと笑ってる、おかしいというのではなく、誇らしげな笑顔。そうかそうか、お父さん頑張るよ。たとえそんな笑顔じゃなかったとしても、その誤解を依り代にしてお父さん頑張るよ。

　9分半が過ぎた。

　幾人かのお父さんお母さんから「良かったですよ」と声をかけられる。ありがたいやら恥ずかしいやら。背中が痒くなりそう。大人はこれだから駄目だ。子供たちには運動会だおゆうぎ会だ音楽フェスティバルだと、衆人注視の中で何かをやらせて、大人はそれを見てるだけで、感動したとか声をかけて、その5年間だった。謝辞をやってみて、1番良かったなと思ったのは、大人の自分も舞台に立ち、何かやることで、子供と同じ立場になれたこと。「良かったですよ」と声をかけられるときの、嬉しかったりホッとしたり恥ずかしかったりする感じが、肌で理解できた。もちろんそんな役目をさせていただけるのはなかなか無いことだし、大変だったけど、少しは子供の気持ちを理解できたかなあと。つまり、息子が最前列で壇上のお父さんに向けていたちょっと誇らしげな笑顔は、そのまま、運動会で息子に注いでた視線と同じだったのだ。

　式が終わって、茶話会やランチパーティで、これまで話したことのなかった保護者からもいくつか声をかけていただいた。これも謝辞効果かも。会釈しかしたことのなかった人たちとお話できて嬉しかった。こんなことならもっと早くから挨拶しとけば良かったけど、それが出来なかったのにも理由はある。謝辞をやって、このタイミングで初めて話ができたのがベストなことだったのかもしれないし、謝辞をやってなければ最後まで話をすることなかったのかもしれない。

　式が終わってからも、数日は希望家庭のみ保育園に通った。最終日、お迎えの時には息子も名残惜しそうに、お友達と玄関のところでじゃれていた。親同士も挨拶をしたり、子どもたちのツーショット写真を取り合ったりして別れ難く。そんな中、卒園する同級生じゃなく、1つ下の女の子が息子と別れを惜しんでくれた。お母さんと話をすると、いつも遊んでいたそうで、お兄さん（息子です）が卒園してしまうのを寂しがってくれていたそうだ。その女の子だけじゃなく、その女の子の弟さんとも一緒に遊んでて、小さな子の面倒見が良くて（息子が）、大好きなお兄さんで、運動会のときも応援してくれていたと。こんなに毎日一緒にいて、親が知らない息子の一面を知ることができた。そうか、下の子たちに優しいお兄さんに育ってたのか。家ではお父さんの言うことにことごとく反抗し、気に入らないことがあるとすぐにお父さんを叩いてくる暴れん坊が、保育園では小さな子に優しくて面倒見のいいお兄ちゃんだったとは。ありがたい。その子と息子の写真を撮り、お母さんにメールアドレスを聞いた。写真を送るために。卒園に際して色々なお母さんに、子どもたち同士の写真を送るためにメールアドレスを聞いたりしてたが、そのおかげで、1個下の女の子のお母さんにもすんなりとメールアドレスを聞くことができたよ。卒園効果で僕もいろいろ成長できたのかも。

　卒園して、4月からは息子は小学生に。どんどん成長することだろう。お父さんは送り迎えの仕事が無くなるので、それに代わる健康対策を考えなければならない。やっぱり散歩かなあ。春からの新しい生活は、なにも子供だけのものではないよ。親もまた、始まる新しい生活を楽しんで成長していきたい。

オフィスを引越ししました。といってももう約1ヶ月が過ぎてて、それ今書くかと思うけれども、まあ記録として。

約2年半過ごしたオフィスから離れるにあたり、メチャ断捨離。断捨離に役立ったのがメルカリです。いろいろな機材を処分するっていったってまともにやってたらそれだけでン万円かかる。粗大ゴミとして捨てたら大変なことになる。そんな時に「メルカリやってみたらすごく楽。スマホで写真撮って値段付けたらすぐ売れてコンビニに持っていったらそれで終わり。相手の住所書く必要も無い」みたいなツイート見て。それで「やってみるか」と。通常ならこういうサービス使うことには結構慎重で、ヤフオクで出品したこともなくて。でもそんなに簡単に売れるならと試しにまずAKGのマイクを出品してみた。30分で売れて。えええええええ、マジかよそんなにすぐに売れるのかと驚いて。それでRCサクセションの楽譜集を2冊まとめて出品してみて。3分で売れて。えええええええ、マジかよぉぉぉぉぉ。そこからはメルカリの虜。すでに80個くらいいろいろなものを売りました。以前オリジナルTシャツプリントしてた時の残りの無地Tシャツを100枚くらいとか、メチャでかいギターアンプとか、コンデンサーマイクにレコーディング機材、タイムカードの機械やオーディオアンプとかなんとか。

自宅にあったスピッツのインディーズ盤はめちゃ高値で売れました。28年前のB’zのサイン色紙を1万5千円で出品したら1分もかからずに売れててビックリ。オフィスの断捨離だけじゃなくて自宅の貴重品も売って。まあ世の中にはそういうアーチストの大ファンがいるわけで、それほどファンでもない僕が持っているよりいいかなあと。

そうやってメルカリで品物が減っただけではオフィスはまだまだ荷物だらけなので、さらに書類とかを処分して。CDの在庫も必要最小限に減らして。それで退去日前4日くらいから荷物を運び出して、ロッカーやオフィス用机などは偶然近くにあったくず鉄業者に引き取ってもらい、家具はリサイクルショップに引き取ってもらい、いやあずいぶんと身軽になった感じ。それでも一旦自宅に運び込んだ段ボールは多くて、約1ヶ月経過した今も全部開くことも出来ずに積み上げられているという始末。

デッドラインが決まっている引越し日に向けてはかなり強引に荷物を減らして、その勢いにはほど遠いけれども、これからも断捨離を続けていこうと思います。そうやって最終的にはスーツケース2個くらいでいつでも引越しできるくらいの状態にして、拠点に縛られない会社になれればいいなあと。いつ何が起きてもすぐに移動できて、なんなら海外に移動しても普通に仕事できるようなのが理想だと思います。そのためには今目の前にあるそこそこ大きなスピーカーと、そこそこ重量のあるオーディオアンプを処分する必要があるのかもなあという気もします。昨今の小さなスピーカーとか、スマートスピーカーなんかでも代用効くんだろうとは思うんですが、まあ、音楽の会社ですから、そこは断捨離ポイントとしては一番最後になるんだろうという気がします。

　8月16日は五山の送り火。

　送り火を大文字焼きと呼ぶと地元の人が嫌な顔をしますというのはよく言われる話だが、出町柳デルタ付近の西側土手に集まって見物する人の群れを見ると、まあそんなことを言っても仕方ないですよね、という気がする。この日の東側を向いたホテルの部屋はどこも高値でかなり早くから予約で埋まっているという。見たいのだ。その火が燃える様を。しかしこの送り火は送り火ということなのであって、お盆に此岸に帰ってきた御招霊さんが彼岸に帰っていく、その目印として火を焚く宗教行事なのだ。

　京都のお盆は8月7日の迎え鐘から始まる。東山にある六道珍皇寺と北山にある千本ゑんま堂引接寺で先祖を迎えるための鐘を突くことに始まる。

　東山の六道珍皇寺では水塔婆に戒名や俗名を書いてもらい、迎え鐘を突く。この音を聞いて、霊はこの世にやってくる。

　7日にこの世にやってきた霊はしばらくこの世に滞在してお盆を過ごし、お盆が終わるとあの世に帰っていく。その区切りを付けるため、京都の人は寺町三条の矢田寺に行き、送り鐘を突く。

　妙法を除く4山では一般からの護摩木奉納を受け付けている。如意ヶ岳の大文字では銀閣寺の門前にテントを出して受け付ける。護摩木に「家内安全」などの願いを記して奉納すると、送り火で燃やしてくれる。

　送り鐘を突いた日の夜に、京都の5つの山で送り火が燃やされる。つまり、8月7日から始まる一連のお盆行事のうちのひとつであり、送り火を見るだけで何かが完結しているわけではない。送り火だけを見るというのは、野球の9回裏から球場に行くみたいなものだったりする。

　とはいえ、お盆行事を全部やらないとダメとかいっても仕方ない。祇園祭も7月1日から31日までの一連の祭であって山鉾巡行だけ見ても意味が無いなんて言ったところで現実的ではないのだし。実際僕も最初は今から9年ほど前に一度観光で来て、燃えるのを見た。浴衣を着て川岸でごった返しながら見た。その後6年ほど前、東京の友人が外国人のゲストを連れてくるからどこで見ればいいのかと言うので、やはり鴨川の土手で一緒に見た。暑い夏の想い出で、それはそれで良いじゃないか。花火を見るような気持ちでそれぞれが盛上がって楽しめば、それはそれでいいんだと思う。

　現在断捨離をしている日々なのだが、ちょうど16日の送り火の日に、こんな懐かしいチケットが出てきた。こんなところにも名前があるのだよなあ、お前。思い出せよと言われているような気分になる。いやいや、思い出すもなにも、忘れてないよ。ちゃんと鐘2回突いてきたんだから。

　2年くらい前だろうか、武田砂鉄という人がオフィスにやってきた。よく知らなかったのだが、著名な人らしかった。僕のツイートに興味を持ち、雑誌に連載しているコラムの取材ということだった。メタルのTシャツを来たその人はひとしきりアーチストと死亡について話をして、「これからデビッドボウイが訪れたという京都のいくつかの場所に行ってみるつもり」と言って去っていった。

　その人のツイートをその後定点観測するように眺めている。そして今日こんなブログ（？）について「書きました」と呟いていた。

　「​RADWIMPS「HINOMARU」について」

　最近話題の「HINOMARU」（RADWIMPS）についての話だ。どういうことかは知ってる人は知っているなりに、ググる人はググるなりの知識で読んでもらえばよくて、ここであえて説明する気にはなりません。むしろ武田氏の文章を読んで、現象面として知っている断片の知識を補完してもらうのがいいのではないだろうか（僕もそうだったし）。

　この文章の中で気になったのは、RADWIMPSの野田洋次郎という人が思春期を海外で過ごした人だということだった。そうなのか、彼はそういう人だったのか。＜長くアメリカで暮らしていた野田が、「変わった名前、容姿、洋服」などの違いからイジメが生まれる日本と違い、アメリカではむしろ「様々な眼、髪、肌の色、格好、皆微妙に異なる発音、宗教、宗派、名前」など、「違う子供」ばかりで、「共通項を探すほうが難しい」＞と書いてあった。そうなのか、そうなのか。

　日本という国は同調圧力の強い国である。野田の曲を叩くのも賞賛するのも一種の同調である。音楽の仕事をしていて、日本では本当に好きな曲が聴かれているのかという疑問をずっと持っている。チャートに載ればそれを聴く。みんなが聴いているから自分も聴く。みんなが飽きたら自分も飽きる。それでは本当に良い音楽を作って世に問うても誰にも届かないのではないのか。それなら雑誌のページを買い、ラジオのオンエア枠を買い、サイトに広告を出して露出を図った方が意味があるのではないか。良い音楽より、多くの露出だ。それは結局音楽を聴く人を信じないということだし、音楽そのものを信じないということである。だが良い音楽がダイレクトに評価されにくい中で、多くの聴衆はそうなんじゃないかということを否定できる根拠に出会ったことが無い。本当に無いのだ。

　個人的には、「HINOMARU」という曲が嫌いだ。アレはやはりダメだと思う。だから批判もする。しかし、そんな人たちの中から、ライブ会場に行って客に聴くなとアピールしたり、レコード会社に廃盤を要求する人たちが現れているようだ。それはやはりダメだ。野田という人がダメな歌を作るよりもダメだ。言論は暴力であってはならない。ダメな歌だと小さなひとつひとつの声が言う。その声に接した誰かが意識を持ってその歌を検証する。ダメだと思う人が増えるかもしれないし、いやいやダメじゃないよという人が増えるかもしれない。それは「ダメだ」と発する人の言葉や哲学が問われる結果なのであって、大声で圧力として接する誰かを四の五の言わさずにねじ伏せるのはもはや言論ではなくて暴力だ。

　その暴力こそ、同調圧力の根源だ。クラスで教師が権力者として威圧する。リーダー格の生徒数人がひとりをターゲットにして無視をする。閉じた家庭という空間で力の強い大人が子供にプレッシャーをかけ暴力を振るい従わせる。最近も体罰を経て餓死という悲惨な例があったが、そこまで悲惨ではなくとも、普遍的に、大人による圧力が子供を威圧している家庭は多いのではないだろうか。

　子供に「ちゃんとして欲しい」と思う気持ちを否定するつもりはない。だが暴力で従わせるのは、表面的なちゃんとでしかない。そうして力で脅してちゃんとさせることに本当に意味があるのだろうか。

　子供の頃から、学校教育と家庭生活を通じて「ちゃんと」することを学ぶ。それはちゃんとすることで事なきを得るということだ。野田という人が思春期を海外で過ごし、日本に戻ってきて同調圧力の強い社会で何を感じてきたのか。それはとても興味深い。武田砂鉄氏は「謝れ、なんて言ってないのに、謝られるのは困る。」と書いている。その通りだと思う。謝るという行為は、ほとんどの場合とりあえず頭下げとけということだ。その頭を下げるということがこの国のちゃんとした行為だったりする。頭さえ下げておけばとりあえずみんなの溜飲が下がる。時間が経てばまた別の話題に飛びついて、何に怒っていたのかなんて忘れてくれるさ。だから頭を下げておく。反省と謝罪は別のことだ。安倍晋三が「丁寧な説明をしていく」と頭を下げることと同じ。意味が無い。ずるい。

　だが誰もがそうやって表面的に頭を下げることを覚えてきた。それを処世術という。親が子供を腕力で叱って、腕力で敵わないし家出することも実際に無理な子供は謝ることを覚える。その謝ることとは頭を下げることだ。何が悪かったか、親が何に怒っているのかは理解してなくてもとりあえず頭を下げる。ごめんなさいと言っておく。それでその場は収まるのだと知る。そんなのは、教育でもなんでもないのに、そうやって躾というものを重ねていく。

　ちゃんとするってなんだろうか。餓死した目黒区の5歳児は、「もっとあしたはできるようにするから」と書き残した。その「できるように」なった状態とはいったいどういうものだったのだろうか。ひらがなを上手に書くことだろうか。違うだろう。イライラを抱えた親は、どんなに上手に字を書けるようになっても殴るのだ。そうしたら、頭を下げることしかないじゃないか。「もうおねがいゆるして」と書いても許されることの無い地獄は本当にかわいそうだが、あれは、あの家庭だけにあった特殊なことではないように思う。

　僕らは、許してもらうことだけを願って、頭の下げ方を学ぶ人生に生きているのではないだろうか。そのためには自分の考えをいうことをためらうし、自分の考えをいう人を妬んで叩くし。

　写真は今朝の京都大学の百万遍交差点角。立て看板を規制された学生と大学の戦いは続いている。この国の同調圧力を考えれば、反省して看板など出さなければよいものを、学生たちは屈すること無く看板を出し続けている。あっぱれだ。看板の内容はどうでもいい。あそこに看板を出してはいけないというのは、親が子供に対して行なう躾のようなものだと僕は思う。それに従って波風立てずに生きるという人生の過ごし方はもちろんある。一晩で撤去されるものを作って運んで設置し続けるのは大変なことだし面倒だ。だが、そこで黙ってしまったら、それはとりあえず頭下げとくことと変わらないよ。世間の批判にさらされてとりあえず謝っちゃったアーチストのようで。

　アーチストの歌詞を批判するのは良い。看板の中身を批判するのも良い。だが、アーチストの作った曲を廃盤にしようとする動きは、京大の立て看板を撤去しようというものと同じだと思う。それはかつて「イムジン河」という曲が東芝によって発売自粛になったり、RCサクセションの「COVERS」がやはり東芝によって発売中止になったりしたのと同じことではないか。

　ちゃんとする、ちゃんとさせるというのは、そういうことではないだろう。

（今日のBGM:『点と線』ルルルルズ）