昨日、義妹が結婚式を挙げた。晴れやかな日だった。

　僕自身は9年前に結婚し、それなりにやってきている。家族制度というと大袈裟で、戦前のような家長制度なんてものはくそくらえと思っているけれども、だからといって結婚制度を毛嫌いしているわけではない。以前オーストラリア人のミュージシャンと仕事をしていて、彼は日本で安定的に暮らしつつ音楽活動をしたいのでビザ問題を解決したいと言っていたのだけれども、当時付き合っていた日本人女性と入籍するというのはどうにも抵抗感があったようで、それは彼曰く「オーストラリアには戸籍などなく、みんな事実婚。だから訳のわからない「入籍」なんて納得がいかない」ということだった。まあ違う国の違う習慣や制度に抵抗なく従うというのはハードルが高いものなのかもしれない。僕はというと、まあ日本人なので入籍ということにそんなに抵抗はなかった。

　とはいえ、じゃあ入籍したらその日から家族なのかというとそれも簡単な話ではなくて、やはりそれは人同士の関係性なので、ひとつひとつ積み重ねていくという努力は必要。というかまあ、こちらが心を開かずして相手に心を開いてもらうことを期待してもダメであって、書類を提出しても心の問題はまた別にある。猜疑心の強い人との関係だけでなく、最初からウェルカムな人との関係でも、本当に心の底からウェルカムになってもらうためには、こちら側の心がけも必要だし、あとはやはり時間だけが解決することも多いように思う。

　僕自身は9年が経過してもはや血縁の親と義理の親とあまり変わりない感じに接してもらえているなという実感があるのだけれども、それも年月と、その間に交流してきた積み重ねが大きいなと思っている。それとやはり、息子の誕生も大きい。息子にとっては血縁のおじいちゃんおばあちゃんだし、おじいちゃんおばあちゃんにとっても血縁の孫だ。子は鎹といって、息子自身は別に家族親族の鎹になるために生まれてきたわけではまったく無いが、結果として、彼の果たしている役割は大きい。

　もちろん、子供が生まれないカップルも、そもそも生まないカップルもあるし、あっていいし、子供が生まれないから家族親族が馴染んでいかないということでもないし、逆に子供が生まれていても家族親族がバラバラということだってあるので、一概に言うことはできない微妙なことだけれども。

　昨日の結婚式で、僕の立場は新婦側の親族であって、僕の気持ちも、この家族の側として、新郎の親族とこれから仲良くやっていけるのだろうか的なものだった。自分の結婚式の時には「これから仲良くやっていけるのだろうか」と思っていた、ある意味向こうサイドの親族の中に完全に自分の足場を置いていた。そこから、新郎側の親族を眺めていた。なんか面白い。自分も、奥さんの親族側の一員にいつのまにかなっていた。ある意味、知らないうちに混じっていたということなんだろうか。婚姻届の提出みたいな手続きではけっして到達しないところに、今自分が立っているという、不思議な気持ちを感じている。

　で、今日は結婚式翌日の義妹カップルと僕ら夫婦と4人でランチに行った。明日から遠くに行ってしまう2人なので、その前にメシ行こうよという感じのことで、特別にセレモニー的なことではないのだけれども、こういうちょっとしたメシ行こうぜの積み重ねが、やっぱり家族を本当に意味で家族にしていくんだろうという気がする。いや、僕自身が勝手に思ってることなので、間違っているのかもしれないけれども。正解などないけれども。それに、本当の意味の家族という言葉自体が、観念的に過ぎるものであって、そんなものはどこにも存在していないのかもしれないのだけれど。

　風邪をひきました。でも寝込むほどじゃないのでそれなりに過ごしつつ、帰省。京都から福岡と三重にいくのだが、この年末年始の場合年明けの日程がキツキツなので、年末に早めに休みを取り福岡に行って、それから三重に移動するのが帰省ラッシュとぶつからない最善の策かと思い、まず福岡へ。

　福岡では移動した日と次の日くらいはまだ元気に外にも出られたけど、3日目からなんか具合悪くて寝込み、奥さんと息子だけで公園に行ったりという感じ。30日には三重に移動する予定だったのを1日日延べし、31日に大移動。

　三重に着いても2日にちょっと買い物&公園に行くだけでずーっと寝て食って寝て食って。いやあ、義父さん、義母さんどうもすみません。でもこの数年は帰省のメインは孫なので、僕は取り合えず寝て食ってでもいいでしょう。何のお咎めもなかったし。

　けっこう長い間休暇を取ったにもかかわらず、本もろくに読めず、プログラミング的な勉強もまったくできず、ただただ時間が過ぎていっただけのような気がします。でもまあ、こういうのが休暇というものの醍醐味であり本当の姿なのかもしれません。何にもしないで1週間以上ただ過ごすということに、もっと慣れた方が良いのだという気もします。

　思い返せば海外のホテルなんかにはプールが普通に付いてて、あんなところで泳いだりするのはいったい誰なんだろうかと不思議だったことを思い出します。せっかく海外に来たのだから、時間に追われるように観光観光また観光、あそこには行ったかここは見たかとゼイゼイいって、ホテルではただ寝るだけというのが当たり前で、でもそれでは、まるで家は寝るためだけにあるものみたいな日頃の生活となんら変わらないわけで、たまの休みのわずか1日くらいは、どこにも行かずにホテル併設のプールで浮かんでるだけみたいな過ごし方が出来て一人前なのではと、ふと考えたわけです。

　しかしながら、ほぼ10日近くもずーっと実家で寝て食って寝て食ってまたまた寝て食って寝て食ってというのはさすがにいかがなものかなという気もしないではありません。まあ明後日から頑張ります。って、まだ明日も休むつもりかい！！　ええ、休みますとも。何事も急いてはことを為損じるのですよ。おほほほほ。

　先月、友人が亡くなった。32年に渡る付き合いの、親友中の大親友だった。独身時代には週に3回ほど、一緒にメシを食っていた。深夜のファミレスで。5年前に僕が京都に引っ越してからも、年に4〜5回は遊びに来てくれた。そりゃそうさ。彼がLAに暮らしてた頃には僕が年に数回遊びに行ってあげてたんだから。おあいこだよ、おあいこ。

　今年の1月に病におかされ、プライドの高い彼は弱い自分を見せたくなかったのか、僕以外の友人たちとの連絡を絶った。以来ほとんど毎日のように電話やメールでやり取りをしてた。いつかは回復するだろうと信じていたが、残念なことに先月末に他界した。死亡する当日の朝まで電話をしていたのに。悔やんだところでどうなるものでもないけれど。

　早過ぎる死に動揺したご家族から、しばらくの間誰にも知らせたくないとのことで、1ヶ月もの間僕もそれを公にせずに過ごした。そういうの、辛いな。そして昨晩、ご家族の同意を得た上で、彼のFacebookで正式にアナウンスした。

　それを見た人たちからの反応が徐々に聞こえてくる。様々だが、共通して一様に驚きと哀しみ。だが既に1ヶ月以上経過した僕とは明らかに温度差があって、何となく、哀しみを共有して共感するという感じではない。誰が良いとか悪いとか、そんなことではなくて。ただ、人と人との関わり方というのはそれぞれであり、それぞれがその距離にある交流を持っていて、個別に個人的に思い返したり嘆いたりすることが、悼むということの意味なのだろう。

　今、驚いてる友達から多くのメッセージが送られてくる。FBのメッセージは新規のものが上に表示される仕組みで、だからやり取りをすればするほど、この10ヶ月間常に1番上に表示されてた君のアイコンがどんどん下の方に消えていくんだ。こうして日常からフェードアウトしていくのかと、アプリが可視化してくれてるみたいで切ないよ。

　ここに書いてないことはたくさんあるし、書けないこともたくさんある。だが、それをここに書いてみたところで、彼への距離がそれぞれ違うのだから、他の誰かの悼みにも癒しにもつながることのない、意味のないことに過ぎないのだろう。

　さようなら森ゾー。そういえば君のことは僕の家庭では森ジと呼ばれていたよ。僕がエイジだから、君は森ジ。うちの息子は絵を描くのが得意で、力作ができたらそれを誰かにあげるといつもいう。それは知ってるよね。何枚かもりじ宛の絵をメールで送ったことがあるからね。その息子が今日ももりじにあげる絵を描いたよ。息子にとってもりじはお父さんの友達というだけじゃなく、自分の友達でもあるみたいなんだ。君は何度か京都の自宅にも来てくれたし、息子と3人でカフェでお茶したこともあったからね。でもまだ人が死ぬってことがよくわからないんじゃないかな、彼には。分別のある多くの友達には報告することができたんだけどさ、君の1番小さな友達には、一体どうやってこのことを伝えればいいんだろうか。

　今日のmusipl.comでのレビューはLILI LIMITの『A Short Film』。レビューは一気に少しだけ。そして万人に伝わるような、想いを薄めた全方位的なもの。

　だからここではちょっとだけ長めに、補足的に。

　映像にアテレコをするという映像。昔の映画のように、波の音を小豆で再現するような、そんなアテレコ。今の機器なら映像にまつわる音などすべてくまなく収録するし、だからこんな作業のなんと無駄なことか。無意味なことか。

　だが、では、最新の機器で撮られた映像と音がリアルをそのまま再現してくれるのかというと、そんなことはまったく無い。全然ない。自分がその場で感じたリアルを映像が再現してくれないということは誰でも感じたことがあるだろう。そのギャップは一体何なのだろうか。その場にいて体感した自分。その気持ちを感情を映像を見た人は感じるのだろうか、いや感じないよなというもどかしさ。それは当たり前だが、では自分がその映像を見た時に自分がそのリアルを完全に思い出せるのかというと、それもまた無理で、時間が経てばそのギャップはさらに深まる。

　小さい頃に自分が祖父と手をつないでいる写真がある。父方の祖父は僕が生まれた頃には既に死んでおり、だから母方の祖父だけが僕にとっての祖父だ。その祖父の記憶は、僕にとってはその七五三の神社で祖父に手をつながれているその姿だ。僕が高校生の時に他界した祖父だから、もちろんいろいろな表情は記憶の片隅にある。だが、写真として残っているのはその一枚だけであり、祖父を思い出そうとするとその写真の立ち姿を寄り代にして近寄る以外にもはや方法がない。

　今は写真もデジタルとなり、ほとんどコストをかけること無く何枚も撮ることができる。スマホでぴょぴょっと撮ってSNSで世界中に公開なんて時代だ。息子の写真は毎日毎日たくさん撮影される。彼にとっての祖父が、祖母が、父が、母が、亡くなっていった後に思い出すための寄り代はたくさんある。そこから浮き彫りになる大切な人の記憶とはどういうものだろうか。そして、それは真実なのだろうか。

　考えると、写真や映像として残っているものは、やはりリアルではない。その場にいて空気や温度を共有した人が現場で感じたものが写真や映像に残るのかというと否である。だが、リアルなそれが消えてしまったとき、残されるのは写真や映像でしかなく、だから、やはりそこにすがるしかないのではないだろうか。

　LILI LIMITの『A Short Film』で描かれる、奇妙なアテレコはそういうものではないかなあと思う。実際に残っている音など、既にリアルではなく、リアルではない音や映像をいくら眺めてみたところで、その時のリアルも、映っている誰かの体温も戻っては来ない。戻っては来ないリアルを感じたくて、見る人は脳内でアテレコをするのだ。寄り代としての映像や音を一旦排除して、自分が覚えているはずの、記憶と温度と空気とをアテレコしていく。MVではそういう記憶や温度のアテレコを映像化することが難しく、だから音を充てていくという作業で表現しているのではないだろうか。

　スクリーンの中に、生きている僕らは入っていくことなどは出来やしなくて。

　いくらアテレコをしても実際の音がそのまま再現される訳もなく。しかしそれでも自分の中にだけ在る音をアテレコしていく以外にギャップを埋める方法は存在していないという、ひたすらに虚しい作業性が、永遠に美しい「人の哀しさ」を表現しているように思えて仕方ない。

　あなたに会いたい気持ちはいつの日も
　優しい景色を見ると出てきてさ
　僕を困らせる
　だけど心はなぜだか温かく
　やわらかなその日射しが入って
　今はもう悲しみは取れたんだ
　だけどいまだに名前を呼んでしまって
　　　　　『A Short Film』

昨夜、夢を見た。

内容は詳しく書かないが、あまりの怖さに仰天して目覚め、あれをまた見るならもう寝たくないと思ったものの、人間は寝ずにはいられない生き物であるようで、また眠ってしまい、こんどは全く違ったパターンの、さっきの悪夢に輪をかけたような怖い夢をみて、再び飛び起きた。

そんなに怖い夢って一体全体どんなんだよ、出し惜しみしないでさっさと内容おしえろと言われそうだし、本当は僕も書き留めたいのだが、残念なことにまったく覚えていない。

人間はどうやら夢で見たことを忘れてしまう生き物らしいです。

そんなわけで次の夜にはぐっすりと寝て、夜明け前に尿意を催してトイレに立ったものの、どうやら今度は夢さえ見なかった様子。少なくとも、怖さのあまりに飛び起きることはなかった。良かった良かった。

もしもあんな夢を毎晩見てしまうのであれば、もう寝たくないと思うのも当然で、寝ずにいて済むということもなく、身体は衰弱していくのでそれとともに眠気も増していくだろうが、それとともに睡眠への恐怖も増していくだろう。それと同時に目覚めてる状態の現実世界で大きなトラブルを抱えていれば、そちらでの心身衰弱も進むわけで、起きてても眠っても悪夢という毎日は如何ばかりだろうかと想像してしまう。

人に与えられた最高の恩恵は「忘れること」であろうと思うのはそういう時であり、どんなことが起きたとしてもケセラセラとしているというのは、無責任に思われたとしても、失ってはいけない最後の砦なのだろうと思います。

生きるとは常に戦場のようなもので、攻撃は最大の防御とはいえ、時には本当に砦に立て籠もり防戦一方にならざるを得ないこともある。そういう時に最後の最後まで剥がされてはいけないものが、この忘れるという能力なのだろう。その防衛一辺倒の籠城戦を余儀無くされている時にも、他人はあの手この手でその最後の砦を剥がそうと試みる。人生が戦場であるということの所以はまさにそれであり、剥がされてはならないそれを、他人は善意で剥がそうと試みる。

そんな地獄の防衛戦に晒されている人がいたとすれば、一緒に寄り添って、剥がされるのを防ぐ手助けをできる人になりたいと思います。その力も無く、結局は剥がされて恐怖に取り囲まれるのを間近で見ることになったとしても。