俄には信じられぬこと

 先週末、北朝鮮の金正恩を暗殺する内容の映画がサイバーテロに遭って公開断念というニュースが流れてきた。

 とてももっともらしい。これまでの北朝鮮のことを考えれば、いかにもやりそうなと、ツイツイ思ってしまう。だが、本当にそういう認識で良いのだろうか?

 今回の件、基本的にはアメリカからのニュースという感じで入ってきた。ハリウッドで北朝鮮のことを題材にした映画が作られたと。主人公が金正恩(らしき人物)に直接インタビューをしに乗り込むのだが、実はCIAで暗殺を計画していたという、そんなあらすじ(詳しくは各自で)。その映画に腹を立てた北朝鮮がサイバーテロをしかけ、ソニーピクチャーズの社員個人情報をバラまいたとか、公開予定映画館へテロ予告が届いたとか。サイバーテロに使われたソフトのコードが以前も北朝鮮からのサイバーテロで使用されたものと酷似しているとかで、一部劇場が上映を取りやめたという報道がされ、今度はソニーが公開を断念するという報道になり、ついにはオバマも「許さない」という話に。

 で、許さない結果、ソニーが公開断念によって生じた利益の賠償を求めるという話になってて、それって大統領が関与する話なのかとひっくり返りそうになった。

 この話、どうにも俄には信じられない。

 まず、お膳立てがすべてアメリカによって揃えられているということ。映画を作ったのもアメリカ。公開をしようとしたのもアメリカ。サイバーテロを受けたというのもアメリカ。公開を断念したというのもアメリカ。サイバーテロのコードが北朝鮮由来だと言っているのもアメリカ。公開断念をして、永久にお蔵入りなのかと一部で言われてて、ソニー幹部はテレビで「DVD発売などの方法を模索している」と話していて、で、今朝ほどにCrackleで無料公開することになったと。

 どうにも思い起こされてしまうのは911直後のイラク侵攻だ。当時のブッシュ政権はイラクのフセイン大統領(当時)が悪の枢軸であると主張し、イラクはUNMOVICの査察を受け入れ、大量破壊兵器は見つからなかったものの、米英で国連決議を経ずに攻撃を開始した。結局フセインは捕らえられたものの、大量破壊兵器とやらは見つからず終い。

 その後の中東を見ると、イラクフセインという重しが外されたからなのか、さらに制御不能なテロ組織が勢力を伸ばして無法地帯になりつつある。

 アメリカは今回の件を端緒に北朝鮮へのテロ支援国家指定を再度認定しようという動きがあるようだ。まったくの推測妄想の類いだが、今回の件はキューバとの国交回復とリンクしているように思われる。キューバとの国交回復については国内でも様々な議論があり、概ね好意的だという中にも不安を抱く層もある。不安というだけならアレだが、仮想敵国の存在によって軍需産業というものは成立するわけで、そういう意味ではこれまでキューバが仮想敵としての役割を果たしてきた。だがそことの国交が回復したら、新たな仮想敵が必要になるのは必須で、そのためには北朝鮮がアメリカ国内でテロを起こす可能性があるということを暗に想起させるようなきっかけが必要だったのではないだろうか。まあそこまで踏み込んで断言する材料などはまったく無いので、本当に妄想でしかないとご理解いただきたいけれども、ともかく、今回の件についてはすべての情報がアメリカから提供されているということは頭の片隅に留めておいて損はないと思う。北朝鮮はアメリカと共同で真相の究明をと提案したそうだが、それはCIAの手のうちを北朝鮮に晒すということでもあるので、アメリカが受け入れるはずはない。まあそれを承知の上で言ってるんだろうけれども、もし仮にこれがアメリカ側の自作自演だったとすれば、北朝鮮としてはいっしょに解明しようと言いたくもなるところだろう。

 真相はやがてすべての公文書が公開されればわかることでもある。まあここ数日の秘密文書が公開されるまで、僕が生きているという保証は無いし、北朝鮮という国家が存続している保証もない。そして仮に僕も北朝鮮もアメリカもその時に存続していたとしても、僕の興味が持続している可能性は限りなくゼロに近いわけではあるが。

 あ、もちろんのことだけれども、北朝鮮を擁護しようという意図はまったく無い。実際に他国民を拉致していまだに解決していないような国家なので、それをトータルな意味で擁護するようなことをするはずは無い。だが、行ったことを適切に非難していくためには、それ以外のことでも適切に冷静に対応することが必要なのだと思う。これは北朝鮮に限らないこととして。なので、いかにもやりそうな国だからやってるに違いないという根拠無き断定は、結局自分たちのためにもならないんじゃないかと、そう思っただけのことである。