「風評被害が収まらないから浄化した汚染水を放出するな」って、何?

 東京電力が福島第一原発の原子炉建屋周辺のサブドレンから汚染された地下水をくみ上げ、浄化して海へ放出する計画を地元漁協に説明したらしい。それに対して「風評被害は収まらない」と反対意見が出たという。

 それはどういうロジックなのだろうか?

 まず、汚染水を放出した場合、それによって健康被害が出るのか出ないのかという問題を考えるべきだろう。もちろんここで「出る」とか「出ない」とかの結論を出そうというものではないし、その知識もない。だからあくまでロジックの問題としての考察。

 健康被害が出る場合、それを怖がるのは風評被害ではない。なぜなら実害の発生だからだ。禁止されている農薬が大量に使われた農作物が出荷されようとした場合、それが報じられて「風評被害だ」は通用しない。なぜならそれは実害につながるからである。

 一方健康被害が出ない場合、それなのに怖がって人々が買わなくなるのは風評被害である。そういうのは「風評被害だ」と当事者が叫び、メディアも人々も一緒になってその風評被害を解消させる努力をしていくべきだろう。

 だがこの「健康被害が出るのか出ないのか」というのは、all or nothingの問題ではないから、ちょっとややこしい。インフルエンザなどのウィルスも、ウイルスの保有者と同じ場所で活動していた人であっても、その人の免疫力や体力などによって発症する人としない人が出る。大多数の人が発症しなければその人に取っては実害ではないし、免疫力が低下してて発症してしまった人にとっては実害になる。発症しなかった人が「熱が出るヤツは弱虫なんだよ、日頃鍛えてないからだバカたれ」と言ったら、やはりその人の認識は誤っていると言わざるを得なくなる。

 話を戻そう。福島原発の「原子炉建屋周辺のサブドレンから汚染された地下水をくみ上げ、浄化して海へ放出する」ことは、そのことによって実害を生む可能性があるのかないのか。そのことについて地元漁協の人たちはどう認識しているのか。

 「浄化されているのだから被害は出ない」と考えているのであれば、「風評被害につながる」という発言になるだろう。また「浄化されているということが信用ならないが、その程度では被害など出ない」と考えていたとしても、やはり「風評被害につながる」という発言でいい。しかし一方「浄化されているはずがないし大量の放射性物質が出ているに違いないので、被害が出るはず」と考えているのであれば、その認識で「風評被害」ということはあり得ない。それは「実害が出るぞ、すぐに放出を止めろ」という発言にならざるを得ない。あくまでロジックとしては。

 だから、東電の汚染水浄化後放出に対して、地元漁協は「実害は出ないレベル」と認識しているはずなのだ。だとしたら、そんな漁協関係者のことを信用は出来ないなあと思う。

 東電が「この汚染水は浄化されたので安全です」ということと、「浄化汚染水の放出は実害ではなく風評被害になる」ということは、基本的に同価値である。風評による被害というのは消費者が被る被害のことではなく、出荷する漁協が被る被害のことである。それは汚染水を放出しなければさまざまな問題が発生する東電自身の問題を回避するために住民の不安を無視してでも放出するという立場と基本的に変わらない。消費者としてはそういう業者側の思惑に唯々諾々と従っていては痛い目に遭うと思った方がいいのではないだろうか。