中国が公式に「日本を攻めてやる」と宣言しているのか？いや、それはしていない。「日本とは国交を断絶する」とでも言っているのか？いや、それはしていない。公式には国交があり、それに基づいて大使館を置き、大使を配し、民間の交流も交易も行なわれている。それもかなりの規模で。

　そういう国を相手に「中国が言っているのは建前に過ぎん。建前というよりその場限りの言い逃れであり、裏で何を考えているのかは判ったものじゃない。国際環境が悪化していて、それに備えるためにいろいろと行動するのだ。憲法を変えるのが大変なら、閣議決定で解釈を変えるのだ」と言っている。そういう人がこの国のトップにいる。

　それをどう考えるのか。それは人それぞれがどのような立脚点にいるのかということによるのだろう。

　「総理の言う通りだよ、今の日本は国際的に危険な環境にあるのだから、それに備えるのは必要なことだ」という人もいる。いて当然だ。総理は国の代表であり、代表の言うことは正しいと信じていれば当然そのような説になる。その立場はさらに進展していけば、「一億火の玉」や「お国の為に命を捧げる」という方向に向かうだろう。論理的にはそうなる。自分という一個人や家族よりも、総理の言うことが正しくて絶対なら、そうなる以外に道は無い。それが是か非かということではなく、論理的にそうなるだろうという話。

　僕はそうは考えない。総理や政府が言っている論理を自分というポジションに当てはめてみると、自分の価値観や考え方は見えてくると思っている。それはこうだ。「日本国政府が『今すぐ国民の自由を奪う』と言っているのか？いや、そんなことはない。日本国政府が『今すぐ戦争をする』『徴兵制を始める』と言っているのか？いや、そんなことはない。だが、日本国政府が言っているのは建前に過ぎん。建前というよりその場限りの言い逃れであり、裏で何を考えているのかは判ったものじゃない。人権状況が悪化していて、それに備えるためにいろいろと行動するのだ。」この論理は政府や政府支持の人たちの論理と基本的にあまり変わらない。対象が「中国」から「日本国政府」に変わり、「国際環境」が「人権状況」に変わっただけのこと。だがそれで立場は180度変わってしまう。

　自分の生活や信条をどのようにして守るのか。外国から攻めてこられたらどうすべきなのか。ある局面では戦わなければならないだろうし、ある局面では逃げなければならない。だが政府の言う通りにしていた場合には、逃げるという選択肢は許されなくなる可能性が高い。それは過去の歴史を見れば容易に解る。だから今の政府がやろうとしている野放図な軍備へのシフトは、自分や家族を守るという観点で見ても非常に危ういと感じている。

　人が人として生きるために必要なのは自由だと思っている。そうでなければ、三食が与えられる刑務所暮らしも人としての生き方としてステキなものになってしまう。誰からの監視も受けず、その日何をしようと、他人に迷惑さえかけない範囲であれば構わないというのが自由だ。その範囲をどこまで広げるかは人によって違ってくるのかもしれないが、やはりそれは非常に大切なものである。現在の安倍政権がいろいろと行なっていることは、国民の持っている自由を狭めていく方向に強く向かっている。少なくとも僕はそう感じている。だから、いつ起こるかわからない中国からの脅威よりも、むしろ安倍政権によって日に日に押し付けられている自由への脅威の方が、とてつもなく現実的で、先に回避しなければならない大問題だと思うのだ。

　だから、安倍政権が自らを縛る憲法の枠を強引に乗り越えようとしていて、それが許されるというのなら、その安倍政権が市民の自由を縛るために作る様々な法律や法解釈を、僕らは強引に乗り越えることも自衛権として許されるということになるのではないだろうか。すなわちそれは法を犯すということに他ならない。でもそれはいけないことだ。だからやはり、安倍政権が勝手にいろいろとやってしまおうとしていることも、やはりいけないことなんじゃないかと思っている。
　
　そして、僕と同じように感じている人はこのところ増えてきている。そういう考えが広がっていくことが、国という単位が崩壊する大きな要因になるわけで、やはりこの国の脅威は中国などではなく、国民の国への信頼を悉く失わさせている安倍政権なのではないかと、確信を強めてしまうのである。