息子1歳7ヶ月半は、最近お箸に夢中だ。

　いや、もちろんまだつかめやしない。箸のトレーニングに輪っかがついた箸を売ってるそうだが、まだそれを買って与える段階でもない。ただ大人が持って使っているのが羨ましいのだ。オレにも貸せというからお弁当箱用の短めの箸を与えると、ご飯をつかもうと懸命になる。このところフォークを使うことは結構出来るようになった。納豆を一粒ずつフォークで刺して口に運んでいる。だから時間がかかることかかること。でもまあそれがトレーニングになるのだろうから、こちらもじっと我慢して見守っている。もっとこうすれば上手く刺せるのに。そういう思いをグッと噛みしめながら、見守っている。

　赤ちゃんがいろいろなことを出来ないのには２つ理由がある。ひとつはまだその準備が肉体的に出来ていないということ。このところの五輪中継で、世界のアスリートが華麗な技を繰り出したりしているが、その技を行なうためには筋肉が必要だ。普通のオッサンにはその筋肉が無いから、当然そんな技など出来ない。赤ちゃんが箸を使えない理由のひとつには、箸をコントロールするのに必要な筋肉が備わっていないということがある。それはもう確実にある。筋肉はなにも力強いものだけではなく、繊細な動きを脳の指令に基づいて着実にやるためのものだ。右利きの人が左手で箸を使えないのも、やはりトレーニング不足からくるコントロール筋肉の未発達が大きな理由といえよう。

　もうひとつの理由というのもあって、コツがつかめていないというものだ。大人だって箸の使い方がおかしな人はたくさんいる。右手で文字を書ける人なら、コントロールは結構出来るはずなのに、正しい箸使いが出来ていないのは、どういうのが正しい箸使いなのかを理解していない、つまりコツがつかめていないということなのだろうと僕は思う。

　そう思ったのは、最近の自転車通勤の経験からだ。息子を乗せていろいろなところに行くため、昨年末に自転車を買った。ほぼ10年ぶりに乗る自転車は意外と大変で、しかも京都はなだらかな坂が多く、延々と続く上りでは結構疲弊するし、スピードがほとんど出ない。そういう時に立ち漕ぎをすれば、体重を利用したパワーを活かせるのだが、立ち漕ぎは少々前傾姿勢になるし、夜道には危険だ。なので出来るだけ立ち漕ぎを避け、したがってスピードを出すのにかなり骨が折れる。もちろん本当に骨折はしないのだけれど。

　で、いろいろな漕ぎ方を自分なりに試してみた。固定観念として、ペダルを強く下に押すというのが僕の漕ぎ方だった。昔乗っていた自転車ではサドルも高い位置に調整出来たが、今乗っているのは子供を乗せる用で、サドルをさほど高く出来ない。だからどうしても脚が常に曲がった状態でペダルを漕がなければいけない。そのため縦の力を使いにくい。例えていうならば二の腕だけで物を持つような感じ。肩の筋肉を使えば雑作無いことも二の腕だけで持つからすぐにぷるぷると震えるような、そんな感じ。

　だが数日前、ふとしたきっかけで僕は前に蹴ってペダルを漕ぐようになった。それだと腰や太腿も上手く使って漕げることがわかった。立って脚を上げて、そこから前にいる人を蹴るような感じ。パワーが出る。座りながらでも筋肉の力を上手くペダルに伝えることが可能。効率のいい漕ぎ方だから、速度も出せるし疲れにくい。これがコツというものなんだなと実感した。

　いろいろなことがまだ上手く出来ない1歳７ヶ月半にとっては、出来ないことが多いから、毎日が筋力とコツを獲得するチャレンジに溢れている。だから伸びる。一方大人はほとんどのことをある程度出来るが故に、何かを獲得しようということを最初から考えてもいない。だが、他人が上手に出来るのに自分が出来ないことというのはとても多く、その違いを知り、秘訣を会得することが出来れば、何歳であっても伸びることが出来るのではないだろうか。49歳でイチローのようなバッティングが出来るようになりたいとは思わないが、自転車を上手く漕げるようになれたのはとても有意義だったし、そういう身近で素敵な成長がこれからも出来るんだと、思っただけで嬉しくなる。

　さあ、今日は何のコツをつかもうかな。