ご都合主義

 朝の誰かのツイートで、あの政治家が「長崎や広島で1ミリシーベルト以上の被曝があると医療費が無料になるが、福島ではそういうことになっていない」という発言をしたとかいうことが流れてきた。そうなんだ。福島での被曝限度を20ミリシーベルトにするというのは結局そこに問題が行き着くのではないかという気が僕もしている。
 僕はここで「福島も1ミリシーベルト以上で医療費無料にしなきゃオカシイ」と騒ごうと思っているのではない。ただ、この矛盾を専門家はどう説明しているのかということに注目したいのだ。
 事故後に強制退去とか、移住とか、住み続けるとか、除染とか、まあいろいろなことがあっていろいろな議論が起きた。子供でも年間被曝量20ミリシーベルトの場所に住んでいていいのかという議論もあった。僕個人としてはそれは良くないだろうと思う。チェルノブイリのあとにどういうことになったのかなどをちょっと調べると、それはやっぱりマズいだろうと思った。だが、それは素人の考えである。チェルノブイリのことを精査した経験もなければ、精査出来る知識背景もない。それでも個人としていろいろ考えるのは自由だし、考えた結果をこういう場所等で言うのも自由だし、考えた結果に基づいて自分の行動を決定するのも自由だ。誰からも非難される謂れはない。同時に、僕と違った結果に至った人も、自分でどう行動するのかは自由。他人に迷惑さえかけなければ自由にやれば良いと思う。
 では、専門家はどうなのか。これはやはり責任あるからいい加減なことを言うべきではない。もちろん専門家といえども神ではないので能力に限界はある。間違うこともある。誰かの息がかかっていて偏ったことを言う可能性もある。でも、首尾一貫した理論を構築するべきだろう。それが専門家の最低限の礼儀だ。
 で、今の福島の状況は危険であるという専門家もいれば、いやいや全然大丈夫だよという専門家もいる。いて当然だ。この分野には十分な人体実験結果などないのだ。だからかなりの部分が推測に頼ることになる。危険と思う人もいて、安全と思う人もいて、まあ仕方ないことだ。
 僕個人としては、危険だか安全だか判らないものには近寄らない方がいいかなという気がしている。これは放射能がどのくらいの影響を及ぼすのかということに限らない、生きる上での知恵だ。燃えている火にどこまで手を寄せても安全なのか。1mなのか、50cmなのか、10cmなのか、1cmなのか。その限界値を僕は知らない。だから専門家に1cmまで大丈夫と言われてもきっと10cmくらいまでしか手を寄せないだろう。それが転ばぬ先の杖だ。3cmまで手を寄せて火傷をしたあとでその専門家が「いやあ、データに誤りがありました。5cmが限界でした」と訂正しても、手に負った火傷が突然消えるわけではないのだ。
 それでも専門家の言うことにはある程度の示唆はあると思う。だからこそ、専門家は一貫したことを言うべきなのだ。
 で、医療費無料の線引きの問題。福島の原発事故以降、「20ミリシーベルトの場所で暮らしても問題はありません。今までの1ミリシーベルトというのがそもそも厳し過ぎた線引きなのです」と言う専門家が増えてきた。それはそれでいい。確かに1ミリシーベルトというのは厳し過ぎた可能性はある。火にどれだけ手を近づけたら危険なのかという問題と同じだ。君子危うきに近寄らずだ。ましてや素人を危うきに近寄らせずというのは専門家の大きな仕事のはず。だから厳しい線引きをこれまでしてきたというのも理解出来る。それで今回の事故に際して、そんな厳しい線引きを適用していたのでは社会が回らなくなるというのも一理ある。
 だとしたら、その専門家の説としては20ミリシーベルトがひとつの線引きポイントであるという主張になる。ならば長崎や広島で1ミリシーベルト以上の被曝で医療費無料となっている現実はおかしな話であるということになる。なのでそういう20ミリシーベルト説の専門家は、長崎や広島で医療費無料の適用をしていることがおかしいと声を上げるべきだろう。だがそう言っている専門家の話を聞いたことがない。何故なんだろうか。よくわからない。僕の情報量が少な過ぎて、実はそう言っている専門家は多いのだろうか?
 
 実際は、1ミリシーベルトで医療費無料にしてしまったら国の負担がべらぼうになってしまうから、そういえずに20ミリシーベルトと言っているだけなのだろうと思っている。確かにそれは大きな負担になるだろう。それで国家が破綻するのであればいろいろ困る。だから誰かが頭を下げて「すみません、1ミリシーベルトで医療費無料にするわけにはいかんのです。すみませんすみません。許してください。病気も増えますが勘弁してください」と言うべきだろう。当然その時は無辜の国民が健康的不利益を被るのだから、事故を起こした会社の責任も厳しく問われるべきだし、政治家の責任も厳しく問われるべきだ。だがその責任を取りたくないから、巡り巡って20ミリシーベルトでOKということを専門家に言わせているんじゃないかという気がしている。どうなのだろうか。穿った見方に過ぎるのだろうか?
 これが僕の穿った見方であり、素人の間違った認識であり、本当に20ミリシーベルトでOK、何の問題もないというのであれば、専門家の人たちは、長崎広島の被曝者に対する医療費の優遇をただちに止めるべきだと主張するべきだろう。そして国もその優遇をストップすると宣言すべきである。それができないのは、やはり本当は1ミリシーベルトに根拠があるということの証拠なのではないかと思うのだ。