ご無沙汰です。毎日のようにwordpressをいじってはいるのですが、自分のブログを書く時間が取れず、こういうのを紺屋の白袴というのでしょうか。今も紺屋が今夜に変換されてなんか凹みます。いや、字面のほどには凹んでもいないのですが。

　この間にもいくつか書き始めたのがあったのですけれど短くまとめる能力に欠けていて長々と書いたりしては眠っちゃって途中で放り出された中途半端な駄文が。これもそうならないように気をつけたいものですが、こればかりは気をつけてどうにかなるものではございませんので。横道のことを書くのではなく、本論（というほどのことではない）に行きたいと思います。

　鶴見俊輔の『悼詞』という本を読んでいて、詩人の宮柊二についての冒頭で
A「人のものをぬすむのは、よくないことだ」
B「おまえも、ぬすんだことがあるじゃないか」
A「………」
というのがでてきます。そこから続いて鶴見俊輔の文章が「Bの発言は、C・L・スティーヴンスンの『倫理と言語』では、弱め、という型にあたり、Aの倫理的主張の反証をあげたことにはならない。しかし、Aの主張の気勢をそぐ役割は、果たしている。／気勢をそがれたあとの倫理の主張は、どうなるのか。どのように主張をつづけることができるか。これは倫理にとって、また倫理学にとって大切な問題だ。」と続く。

　この、反証はあげてはいないけれども気勢をそぐという「弱め」の型というものがあるのかと、とても興味をもってamazonで探してみたら、そこそこ古い本で絶版らしく、中古で4500円からでした。うーむ、それは買えない、図書館で探すかと思ったけれど、京都市の図書館のネット検索サービスでは該当書籍見当たらずで、それで凹んだりもしてしまうわけです。

　いや、本当に読みたい本なら4500円くらい出せよという話ですけどね。

　僕の貧困層自慢はそのくらいにして、この「弱めの型」という手法、昨今たくさん目にします。まあ厳密には違うけれども、揚げ足を取っているだけなのにもかかわらずそれが問題の本質であるかのように騒がれ、騒いでいる側には一点豪華主義の「正義」があるものだから、そこを騒ぐことになんの躊躇もない。だが本質を逸らしていることは事実で、結局は本質の大切な論議を停滞させてしまいます。弱めの型を使う人は要するに対立する相手の気勢をそいで自分の側のポジションを有利に持っていこうという狙いがあるわけで、真っ向から本質論で対峙するとどうも分が悪いので端の方の何かで相手の不正的なことがらを拡大して攻めようとする。そしてそういう一点豪華主義の正義を持ち出した人の言説の「正義」の部分に素直に乗っかる大衆が、全体を考えない正義感によってその攻撃の言説に乗る。そして問題はさらに混沌としていって、対立者の気勢がそがれて一丁上がりになる。こういうこと、本当に多いです。世の中にある炎上という現象の多くはそれで、もちろんその炎上で取り上げられている問題点が物事の本質である場合も少なからずあるので、炎上イコール駄目なことということはないけれども、炎上には多くの場合に於いて不正義が仕掛けられているということを、やはり認識しておくことが大切でしょう。

　鶴見俊輔の本にあった宮柊二は、一兵士として中国大陸にいたという。戦闘員だったわけで、人も殺していただろう。晩年の歌にこういうものがある。

　　中国に兵なりし日の五ヶ年をしみじみと思ふ戦争は悪だ

　鶴見俊輔はこう続ける。「宮柊二のような運命に私が出会わずに終わったのは偶然である。戦後になって私の達した解答は、自分が血刀をさげ、自分の手が血でよごれていようと、その手をはっきりと前にひろげて、
「自分は人を殺した。しかし戦争は悪い」
と言い得る人になろうということだった」と。

　この言葉を安易に納得するのは早計だ。それは、ただの感情であり、熱狂でしかない。犯罪を犯した息子のために謝罪に出てくる母親の、言い返せないのを良いことに苛烈な問いを浴びせているレポーターや、その様子を見て溜飲を下げる人や、その様子を見て酷いことをすると嘆いてみせるのとたいして変わらない。じゃあ、自分がその場に立ったら、どういうことが出来るのかというのは、感情や熱狂では想像することができないし、してはならないのだろうと思う。
　
　ただ、そのような実体験を伴う先人の言葉の意味を理解しようと努め、今後の生き方のひとつの指針にしたいと願うくらいは許されるだろう。感情や熱狂で一時的に盛上がって次の話題がやってきたら次々と忘れていくのではなく、一歩退いて立ち止まって、ずっと心にテーマとして持ち続けるようなことがらとして、いくつか持つのだとしたらこれはそういうもののひとつなんじゃないかと、ちょっと思った。

　書いているとついつい語尾が変化してきますね。すみませんね。読みにくいですね。でもその語尾が変化していく過程というものも、感情の高ぶりの一種なんじゃないかなあと、自己弁護をしてみてとりあえず今回の投稿は終わりです。