人と人の距離とはなんだろうか。インターネットは人と人の間の距離を無くしたといわれることがある。確かにそうだと思う。こんな僕のわけのわからぬ世迷言を、地球の裏側で眺めている人がいる。狂ったアングルの写真でも、イイねなどというてくれる人がいる。向こう三軒両隣による相互監視社会でも、土地の縛りを掻い潜った共感に救ってもらうことも可能になった。もちろんそれは同時に土地による縛りから逃れても監視されることからは逃れられなくなった弊害と隣り合わせなのだが。

監視しているつもりはなくとも、そのイイねが監視そのものであることは否めない。じゃあ投稿などせずに潜ればよかろうと君は言うだろうが、潜って見えなくなろうという行為は、それも監視を意識した行為である以上、自由な潜行とは性質を異にする。

人は人なしに生きられぬ弱い生き物だなあと、それがこの東京行きの感想です。情けは人の為ならずとはよく言ったもので、感謝をされたとしてもそれによって増長するのはまったく愚かで、結果として僕が500キロの距離を超えて会いに行ったのは、君の為のように一見見えるだろうが、この3日間で息をついたのは、やっぱり当たり前であるが、第一に僕自身だったのです。

迷惑をかけると考えるのは、視野が狭くなっている結果そう思っているだけで、僕にとっては自分が絶望してしまうことがないためにも、そうする以外になかったのだし、極めて打算的な、自分のために必要な行動だった。付随する効能として君が息をつけるようになったのだとしたら良かったが、それはあくまで付随する効能なのであって、本質的には僕が息をつけるようになったというのが、一義的な目的であり、結果なのだった。今回の距離は500キロほどだったが、何度も何度も5000キロも超えて僕らは待ち合わせをしたではないか。

思い出すのは初めての土地で初めての運転を2人でやったこと。些細なことでお互い腹を立て、半日以上も口をきかずに運転席と助手席で過ごした。それでも腹は減るし、バーガーキングで味のしないボリューミーな何かを食べた。何をきっかけにまた話すようになったんだっけ。感謝するのなら、また話を再開した僕に感謝をしてくれ。無論、僕がまず感謝の言葉を口にした後で構わない。つまり、感謝など無用だということ。そのことくらいはいかれた君の頭でもわかることだろう。

感謝をする時、具体的に感謝をするべき事由が思い当たれば当たるほど、一般的に人は卑屈になる。そのことが関係性のバランスを崩させることがある。だから、僕は恩を受けたなと感じる時ほど不遜な態度をとる。それが理解できない人とは、多分大きな溝があるのだろうと思う。たとえ肩を組んでいたとしても、そこには大きな距離があるのだろうと思うよ。僕のそういう不遜な態度を何度も見てきた君なのだから、是非とも不遜な態度で次もまた僕を迎えて欲しい。その時僕は、なんだよ、と言うだろう。唐突に君が異国に呼びつけ、黄緑色の建物に自力で来いと言った時のように。もっともその黄緑色の丸い建物に僕がたどり着いた時、君はそこにいなかったのだから聞いてないはずだけど。だけどあの時のなんだよは、時間が経てば経つほどに、僕にはなんとも痛快な記憶として、輝かしいひと時として刻まれてしまっているのだよ。そう、あんなことをしたりされたり出来る相手なんて、51年生きてきてたった一人しかいないのだから。

最後に、たったふたつしかない僕の座右の銘のうちのひとつを贈ろう。

「空気と水と、友人の愛。それさえ残っていれば、絶望することはない」ゲーテ

もしかすると、前世の前世のそのまた前世あたりで、僕らは双子だったのかもしれないと、今は思う。

やっぱり世迷言だったな。だけど君は本当の友だから、遠くから僕の世迷言を監視して、無粋なイイねなどすることはないのだろう。